本研究は、排卵を誘導するEGF-like factorの一種であるAREG、EREGの切断酵素として見出したADAM17の発現活性化機構とその基質選択性に着目し、卵胞発育期、排卵期におけるADAM17の役割の全容を明確化することを目的に研究を行った。 ADAM17は、その発現と活性化が重要であり、活性化と基質特異性を制御する因子としてアダプタータンパク質 (ANXA2、ANXA7、ANXA8)が近年明らかになった。これらの卵胞発育、排卵期における発現を調べた結果、卵胞発育期に高い値を示し、活性値も著しく高い値を示した。ADAM17のターゲットを候補化し、探索したところ、TGF-βの発現が認められた。TGF-βはFSH受容体発現を亢進し、顆粒膜細胞のアポトーシス抑制に働くことが報告されていることから、卵胞発育期におけるADAM17の役割は、卵胞退行を抑制にあると考えられた。 排卵期におけるADAM17の調節因子を探索した結果、神経ペプチドであるNeurotensin(NTS)を見出した。NTSは中枢神経系や消化管に発現し、神経突起の伸長や消化管の蠕動運動に働く因子である。排卵刺激直後にADAM17は、AREG、EREGの切断を促進し卵成熟を促進することを報告してきたが、本研究の結果、新たに見出したNTSにより排卵後期にADAM17の発現を抑制することを明らかにした。AREGやEREGはEGFR familyのErBb1と結合しシグナルを伝えるが、一方、AREG単独影響下では卵の過成熟と質の低下を誘導すること、この過成熟はEGF-like factorの一種であるNeuregulin(NRG1)とその受容体を介したシグナルにより抑制され、正常な卵成熟が誘導されることが報告されている。ADAM17の調節因子として見出したNTSは、排卵後期のNRG1と受容体の発現を亢進することも明らかにしている。このことから、排卵前期においてADAM17はAREGを切断し卵成熟を誘導するが、排卵期後期にNTSにより抑制され、NTSにより発現するNRG1へ主要シグナルを移行させことで、卵成熟を誘導すると考えられた。
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