時計遺伝子の一つであるClockは多くの遺伝子の転写に関与し、特定のタイミングに起きる生命現象に関わる。哺乳類の生殖には、排卵や着床、出産など特定のタイミングに起こるイベントが多く、時計遺伝子群との関連が想定される。H27年度までの検討では、Clockの変異をホモに持つマウス(Clockの機能を失っている)を用いた交配にて、子宮内での着床胚の位置取りの異常とともに、これに基づく着床胚数と産仔数の減少を認めた。また着床胚の位置取りの異常には、胚のClockの変異が関与していることも示された。時計遺伝子と胚の着床能との関連はこれまでに報告がなく、検討の価値が高いと判断されたため、H28年度は着床直前(交尾後3.5日目)の胚に発現し、着床に必須の生理機能を付与するCox2やHrh2などの発現量を、Clockの変異を持つ胚と野生型の胚にて比較することとした。一方、予備検討の結果から、交尾後3.5日目に得られるClock変異をホモに持つ胚と野生型の胚は、形態的にはともに胚盤胞期胚であったが、ICM/TEの細胞数の比が異なっており、単純な遺伝子発現量の比較は難しいと判断された。一方で、Clock変異をヘテロに持つ胚(Clockヘテロ胚)と野生型の胚のICM/TE比及び胚全体の細胞数には差がなく、Clockの変異を持つ胚と野生型の胚にて遺伝子発現量を比較する際にはClockヘテロ胚の使用が好ましいことがわかった。これまでの解析では、Cox2やHrh2の発現量はClockヘテロ胚と野生型の胚の両者にてサンプルごとに大きくばらついており、比較は難しいことが示された。このような不安定な発現は、着床に関連する遺伝子の発現開始の時期が胚ごとにばらついていたためと考えられた。対策として、生体からの胚の採取に替え、胚を体外で培養し、4-OH-E2などにて遺伝子発現開始を斉一化する処理を検討している。
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