研究課題
骨格筋は不活動により速やかに萎縮するが、その詳しいメカニズムは未だに不明である。不活動の実験的モデルとして除神経やアキレス腱切除が用いられる。一方、低栄養状態においても筋重量は減少し、タンパク質の制限は明確な筋重量の低下を誘導することが報告されている。本実験では筋萎縮で発現変動する遺伝子の網羅的解析の前段階として、除神経、腱切除、低タンパク質食を施したマウスの筋萎縮関連遺伝子の発現変化を比較することを目的として、以下の実験を行った。10週齢の雄性C57BL/6Jマウスを用いて実験を行った。予備飼育後に坐骨神経切除、アキレス腱切除、5%低タンパク質食(対照食は20%タンパク質)の処理を施した。処理後0,7,14日後に後肢の骨格筋(ヒラメ筋、腓腹筋、足底筋、長趾伸筋、前脛骨筋)を摘出し、筋重量を測定した。ヒラメ筋からRNAを抽出し逆転写を行い、Real-time PCRに供して筋萎縮関連遺伝子であるMuRF1, Atrogin-1およびHDAC4の発現量を測定した。除神経処理後7日目にHDAC4の発現量が有意に上昇した。腱切除後7日目ではMuRF1発現量の有意な上昇が見られた。低タンパク質食群では摂取14日目にAtrogin-1の発現の有意な上昇が見られた。低タンパク質食群では筋重量は低下しなかったが、筋萎縮関連遺伝子の発現量は増加していることがわかった。除神経群、腱切除群、低タンパク質食群においてそれぞれ異なる筋萎縮関連遺伝子の発現上昇が見られたという結果から、筋萎縮という同じ現象でも、筋細胞内では異なる制御系あるいはシグナル経路を通じて筋萎縮が誘導されることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究と並行して核内受容体PPARδアゴニスト投与により発現変動するマウス骨格筋遺伝子をトランスクリプトーム解析RNA-Seqを用いて網羅的に解析することに成功したことから、本研究を推進するための重要な研究基盤の一つであるRNA-Seq解析法を修得できたものと考える。RNA-Seqの解析に向けて、種々の筋萎縮誘導処理後の筋萎縮マーカー遺伝子の発現変動を明らかにした。この結果から、RNA-Seqに供する除神経後の最適な時間を見つけることができた。また、このとき萎縮し、重量が減った骨格筋でも、解析に要する量の高品質なRNAを抽出できることを見いだしている。さらにAPOBEC2欠損マウスも繁殖を進め解析に必要な数まで増やすことができた。RNA-Seqに向けて事前の準備がおおむね順調に進展している。
バイオアナライザーを用いてRNAの品質チェックを行い(RIN 8.0以上)、TruSeq Stranded mRNA Sample Preparation Kit (イルミナ社)で処理後、次世代シークエンサーでシーケンスを行う。得られたデータは、バイオインフォマティクスの手法を使って解析する。このRNA-Seq解析により筋萎縮前後に発現している全遺伝子の種類と発現量を網羅的に解析するとともに筋肉特性変化と筋組織の遺伝子発現の関連性を明らかにする。また、正常およびAPOBEC2欠損マウス間での発現プロファイルの違いから、APOBEC2の機能(特にオートファジー、筋分化との関連)を推定する。さらに筋萎縮・肥大に関連する未知の遺伝子も探索する。C2C12細胞株を使った未知遺伝子のsiRNA実験を行う。本実験は筋萎縮前後で発現変動が最も高かった遺伝子から実施する。筋分化マーカーMyoD, Myogenin, Myosin Heavy Chainの遺伝子及びタンパク質発現をそれぞれRT-PCRとウェスタンブロッティングで調べる。極めて顕著な効果が認められた遺伝子についてはその機能解析を行う。
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