本研究の集大成として、典型的な北海道の草地・放牧酪農地帯である浜中町において、JA浜中町傘下の全酪農家を対象としてアンケート調査およびヒヤリングを実施した。その結果99戸からの有効回答を得ることができた。 注目すべき点として、ホルスタイン種を交配させている農家と黒毛和種精液を交配させている農家が半々を占めていた。この結果は前年とほぼ同等であることから、北海道の酪農経営は、まず自らの経営に必要な後継牛を確保したうえで、「余剰」相当分の育成牛に黒毛和種を交配させている。聞き取り調査結果からも、肉用牛売却所得課税特例措置があることで、初妊牛生産よりも、むしろ短期間で所得につながりやすい肉用素牛生産を増進させていることが明らかになった。換言すれば、北海道の酪農経営は、都府県酪農の後継牛不足事情を斟酌した初妊牛生産をしている訳ではなく、性選別技術の活用により、まず自分の後継牛を確保したうえで、F1子牛販売による収益確保という経営が浸透している。 また、今後のF1子牛価格が不透明ななかで、優秀な後継牛を確保したい都府県酪農家による「ホルスタイン性選別精液または受精卵を受胎させた初妊牛」のニーズが高まることが期待されるが、北海道における初妊牛販売に使われるホルスタイン性選別精液は僅か3%であることから、都府県酪農自らが性選別技術を駆使した優良牛群を創出し、収益性を向上させる必要性があることが示唆された。 以上、4年間に亘る研究により①性選別技術は着実に浸透していること、②当該技術は大規模飼養階層および牛群能力が高い階層に用いられていること、③北海道が当該技術を援用することにより、着実に後継牛を確保していること、同時に④北海道が後継牛供給基地としての機能は失いつつあり、都府県酪農は自らの力で確保する必要性があることが明らかになった。
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