補体は自然免疫因子であり、免疫反応のみならず、代謝や神経発生など様々な生体反応に関与している。申請者のこれまでの研究より、プリオンChandler株感染初代培養神経細胞に補体因子を反応させると細胞膜の透過性が亢進し、異常型プリオンタンパク質 (PrPSc) の蓄積量が減少することが明らかとなっている。本研究では、補体因子によるプリオン増殖抑制の可能性を検討するために、プリオン感染マウスモデルの脳に補体遺伝子に対するshRNAをレンチウイルスベクターにより導入し、PrPSc量に影響を与えるかを検討した。27年度はChandler株を用いて検討を行い、感染中期である感染90日後ではC1qAに対するshRNA (C1qA-shRNA) の導入によりPrPSc量が増加し、感染後期である120日後ではPrPSc変化がないことを明らかにした。28年度はC1qAに加え、C3-shRNAの導入と22L株を用いて検証を行った。Chandler感染90日後にC3-shRNAを導入すると、C1qA-shRNA導入時と同様にPrPSc量が増加し、感染120日後にはPrPSc量に変化がなかった。一方で22L感染マウスの感染90日後にC1qA-shRNAを導入してもPrPSc量に変化がなく、C3-shRNAを導入すると、PrPSc量が減少した。プリオン株による補体反応の相違を詳細に解析するために、初代培養神経細胞を用いて検証した。Chandler感染神経細胞ではC1q、C3、C9により細胞膜の透過性が亢進し、PrPSc量が減少した。一方で22L感染神経細胞ではC3により細胞膜の透過性が透過性が亢進し、PrPSc量は一度減少したのちに増加した。以上の結果から、反応する補体因子および補体反応によるPrPSc量の変化はプリオン株により異なることが示唆された。
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