研究課題/領域番号 |
26450398
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
富岡 幸子 鳥取大学, 農学部, 特命助教 (50374674)
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研究分担者 |
森松 正美 北海道大学, (連合)獣医学研究科, 准教授 (70241370)
小野 悦郎 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00160903)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 発生工学 / 疾患モデル動物 / 腫瘍 / 糖タンパク質 / シアル酸結合レクチン |
研究実績の概要 |
糖タンパク質MUC1は多くの悪性腫瘍で発現する予後不良因子であるが、悪性進展に関わるメカニズムは明らかにされていない。近年、MUC1が免疫細胞上のシアル酸認識蛋白質Siglec-9に作用して免疫を抑制する可能性が示唆された。本研究では、MUC1とsiglec-9の結合を競合阻害する可溶型Siglec-9を発現するトランスジェニックマウスを用いて、このマウスがMUC1発現腫瘍の増殖に対して抵抗性を示すこと、すなわち可溶型Siglec-9が抗腫瘍効果を持つことと、そのメカニズムの解明、新規の分子標的治療法の提案を目的とする。 平成26年度はまず、可溶型Siglec-9発現TgマウスにMUC1発現乳癌腫瘍 (MM46-MUC1) を腹腔内移植し、このマウスが腫瘍の増殖に対して抵抗性を有することを示した。次に、MM46-MUC1を移植し担癌状態にしたTgマウスおよび野生型マウスから腹水腫瘍細胞を採取し、多重蛍光免疫染色により腫瘍細胞上のMUC1と可溶型Siglec-9が共局在すること、また、Tgでは腫瘍細胞におけるMUC1の発現が抑制されていることを明らかにし、可溶型Siglec-9がMUC1に何らかの作用をしていることを示唆した。野生型マウスの腫瘍細胞は大型・多形性に富むのに対し、Tgの腫瘍細胞は小型で多形性に乏しく細胞増殖マーカー陽性率も低下しており、可溶型Siglec-9が腫瘍の悪性化を阻止していることが示された。また、Tgマウスおよび野生型マウスの両方の腫瘍腹水中にT細胞が認められたが、野生型のT細胞は変性・壊死し集簇しているのに対し、Tgマウスでは正常なT細胞が均質に浸潤していた。また、Tgマウスでは野生型マウスと比較して、腹水中の顆粒球・単球コロニー刺激因子などのケモカインが有意に上昇していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
in vivoの解析から、可溶型Siglec-9が腫瘍細胞の増殖を抑制することを明らかにし、Tgマウスにおける腫瘍免疫機能の変化を示唆できたことから、当該年度の目的はおおよそ達成できた。
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今後の研究の推進方策 |
(1) Tgマウス腹水中の免疫担当細胞のタイプや機能活性の解析を推進し、可溶型Siglec-9が腫瘍免疫機能に及ぼす影響の詳細を明らかにする。
(2) 卵巣癌は、Siglec-9が作用することが知られているMUC16 (CA125) を高頻度に発現し、また腹水貯留・腹水播種を特徴とする。このことから可溶型Siglec-9がMUC16発現卵巣腫瘍にも抗腫瘍効果を示せば、その臨床的意義や治療応用への可能性は大きい。そこで、MUC16安定発現卵巣癌細胞株を樹立し、可溶型Siglec-9 Tgマウスへの移植実験・解析の準備を進める。
(3) 可溶型Siglec-9 が生体外から投与された場合、MUC1発現腫瘍の増殖を抑制できるか、すなわち腫瘍治療薬として応用できるかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
腫瘍移植実験における免疫担当細胞の同定に供したマウス個体数および解析のための研究資材の量や種類(免疫染色等に使用する試薬・抗体等の消耗品)が予定より若干少なかったため。また、研究分担者所属機関におけるトランスジェニックマウスの系統維持費用がマウスの繁殖状況の事情により予定より少なくなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度も継続して、分担者所属機関におけるトランスジェニックマウスの系統維持費用として使用する他、腫瘍腹水中の免疫担当細胞の同定や機能活性の解析を推進するため、H27年度の助成金と合わせて適宜使用する。
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