研究課題
イヌの乳腺腫瘍の発症機構について、遺伝性乳癌原因遺伝子BRCA2とDNA組換え酵素RAD51の結合に焦点をあてて、RAD51の構造とBRCA2のBRCリピート(RAD51結合モチーフ)への結合能との関係を解明し、イヌを含めた各種動物における新規癌治療法開発の基礎研究基盤を構築することが本研究の目的である。以前の研究により、RAD51の動物種によって異なるアミノ酸がRAD51-RAD51あるいはBRCA2-RAD51の結合力を変化させることを確認したが、これは哺乳動物ツーハイブリット法という細胞内での相互作用解析法によるものだったため、in vitroでの解析を行うべく、無細胞タンパク質合成法によって作製された各種RAD51置換体を用いて解析条件の検討を行った。BRCA2がアンドロゲン受容体(AR)と相互作用してDNA損傷修復に必要な因子の転写を活性化するという報告に着目し、AR相互作用分子のひとつであるイヌのsmall glutamine- rich tetratricopeptide repeat-containing protein α (SGTA)をクローニングしてこれがARシグナルを阻害することを示した。また、イヌの乳腺腫瘍組織でBRCA2の発現が有意に低下していることを示し、その発現低下機構としてプロモーター配列の変異ではなくスプライシングバリアントの出現とその分解が関与している可能性を示した。
3: やや遅れている
BRCA2の相互作用分子として報告されていたARに関連してSGTAがARシグナル伝達を阻害するという研究成果や、BRCA2のイヌ乳腺腫瘍における発現低下や新規のスプライシングバリアントとその腫瘍発症における役割について論文に発表したことは評価に値する。しかし、RAD51の組換え能に関する研究については、組換え体RAD51の変異体標品が概ね準備できているものの、その可溶化及び解析実験における安定化について適した条件の検討に難航して予定どおりに研究が進まなかった。これらを総合的に考えてやや遅れているとした。
RAD51の組換え能に関する研究についてstrand exchange assayの条件を詳細に検討し、実験系を確立する必要がある。更なる検討を進めたい。また、現状では組換え産物をエチジウムブロマイドで染色して検出しているが、ラジオアイソトープで標識した核酸を使用する方法や、生体分子間相互作用解析法のひとつであるバイオレイヤー干渉法(Bio-Layer Interferometry)による実験も行っていきたい。これを確立しつつ、RAD51のアミノ酸置換がBRCA2との結合に与える影響のin silico解析や細胞内における相同組換え効率を測定する実験も行って行きたい。
次年度使用予定額が生じた状況として、使用額が予定していた額を下回る結果となったことによる。「旅費」は支出しなかったが、これは学会参加旅費を他の財源で賄うことができたことや、インターネットを介した電話会議やファイル転送の機会を頻繁に持ったことによる節約の結果である。「人件費・謝金」については、今年度は業務を依頼しなかったことによる。
次年度使用額のすべてを「物品費」にあてたいと考えている。物品費にあてる理由は、本報告書で前述したとおり、strand exchange assayの実験が予定よりも遅れており、これに当初に計画していたよりも多くの支出が見込まれることによる。他の費目については、当初の計画どおりにしたいと考えている。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
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