研究課題/領域番号 |
26450403
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
守村 敏史 滋賀医科大学, 分子神経科学研究センター, 助教 (20333338)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 筋萎縮性側索硬化症(ALS) / in utero electroporation / オートファジー / 小胞体ストレス |
研究実績の概要 |
(1)孤発性ALSの分子発症機構はこれまでに殆ど明らかにはされていないが、患者病巣で核蛋白質であるTDP-43が、細胞質に異所局在し封入体を形成し、封入体内でユビキチン化、リン酸化、蛋白質の断片化が起こる事から、TDP-43のこれら翻訳後修飾がALS発症の重要な引き金となっていると考えられている。これまでin vitro ubiquitinationに伴い結合する蛋白質の質量解析から、TDP-43に会合するセリンスレオニンキナーゼ(TDP-K)を同定し、今年度は、TDP-43の蛋白質の翻訳後修飾に関わる可能性について解析を進めた。これまでに、免疫沈降法やHeLa細胞におけるTDP-43封入体モデルを用い、TDP-Kの一つのアイソフォームがHeLa細胞での封入体にTDP-43と共局在し、かつ結合する事を確認したが、phostag-PAGE等の解析から、現在までにTDP-KがTDP-43のリン酸化に関与する証拠は得られなかった。 (2)(1)の研究と併行して、培養細胞の遺伝子導入及びその後の生化学的・分子生物学的解析を進め、ALSの発症に深く関与すると考えられる新規の細胞応答を見いだした。 (3)ALSを含め神経変性疾患は、影響を受ける細胞種により疾患特異的な症状を示すにも関わらず、それぞれの細胞病態には共通の分子基盤が存在する。中でもオートファジーと小胞体ストレスは、神経変性疾患のみならず、多くの疾患の共通した細胞病態である。前者については既に幾つかのプローブが報告・利用されている事から、私はALS病態解明のツールとして後者のプローブの開発を進めた。現在までに開発したプローブが、既知の小胞体ストレス誘導試薬に対して反応する事、変異proteolipid protein1 (PLP1)による小胞体ストレスを検出できる事、複数の変異PLP1を用いた実験から、臨床的な重症度を見分ける事が可能である事を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
in vitro ubiquitinationの実験より、TDP-Kがユビキチン化特異的にTDP-43に結合する事から、TDP-43によるALSの病態、特にユビキチン化TDP-43の蓄積や封入体内での高度なリン酸化に深く関わるもとの考え、当初はリン酸化部位の同定や抗リン酸化抗体の樹立を計画に挙げたが、TDP-KによるTDP-43のリン酸化そのものが確認されなかったので、この計画は更に進行できなかった。しかしその一方で、培養細胞へのALS関連遺伝子の導入実験から、ALSに関与する可能性のある新規細胞応答をHeLa細胞で見い出す事ができた。本研究の目的は、マウス中枢神経系でのALS関連遺伝子の発現を種々の方法で調節し、in vivoで局所的なALS病変モデルを作り、治療法を確立する事にある。即ち、次年度以降in vivoで同様の遺伝子操作を行い、HeLa細胞と同様の細胞応答が認められるか、或は生体内での神経細胞の機能にどのような影響を与えるかと言う点を解析する事は、本研究の目的達成には極めて重要である。更に、小胞体ストレスは変異SOD1によるALSの進行に鍵となる細胞ストレスであり、その変化を検出するプローブの開発は、ALSの病態を知る上で不可欠なツールである。このプローブとSOD1の疾患関連変異体を同時にマウス中枢神経系に共発現させる事により、ALSによる小胞体ストレスをin situレベルで検出可能になる事が期待できる。以上の事を総括し、本研究は概ね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)TDP-43のユビキチン化依存的に会合するセリンスレオニンキナーゼ(TDP-K)のALS発症に関わる役割は現在までに明らかとされておらず、今後引き続きこのキナーゼの病態関与の可能性について検討を行う。 (2)研究実績の概要(2)で挙げたALSの発症に深く関与すると考えられる新規の細胞応答の分子機構に関わる研究を、siRNAによる標的遺伝子発現の抑制を中心に培養細胞レベルで進め、そこに関連する分子群の同定を行う。またこのような細胞応答が、同様の遺伝子操作を行ったマウス中枢神経系で起こるかと言う点について、electroporationまたはレンチウイルスを用いて進め、ALSの病態への関与の有無について詳細に検討する。 (3)(2)で挙げた細胞応答の詳細な分子機構が明らかとなった後のステップとして、ALSの治療法に向けた研究を進める。即ち、siRNAの結果をもとに、各種低分子化合物(阻害剤)の効果について、培養細胞及び初代神経細胞を用いて進める。更に、幾つかヒットする化合物が同定された場合、in vivoにおける効果についても、先に示した遺伝子導入方法を組み合わせて検討する。 (4)開発中の小胞体ストレスプローブについて、現在までPLP1の変異体についてその有効性を確認して来たが、今後は各種小胞体ストレス誘導試薬や他の小胞体ストレス関連疾患とりわけALSを中心に細胞病態解明のツールとしての利用価値について検証する。また、次の世代のプローブの開発も合わせて進める。 (5)開発したプローブについては、SOD1の疾患関連変異体とマウス中枢神経系に共発現させ、これまで用いられて来た免疫組織学的手法や分子生物・生化学的手法から得られる結果と比較し、in vivoでの小胞体ストレスの検出系としての評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度、直接経費として当初の申請通り研究遂行に必須な機器(エレクトロポレーター)を購入し、年度予算のかなりの部分を費やした。その為、年度終盤に研究遂行に当てる物品費に支障が生じ、次年度以降の経費から実験遂行に支障が出ない範囲で、消耗品購入の為の物品費と論文執筆の際の英文校閲費(その他の経費)として合わせて直接経費20万円の予算の前倒しを行った(平成27年度及び28年度予算からそれぞれ10万円)。研究そのものは計画通りに遂行できたが、論文執筆までは年度内に到達できずに、前倒しによる交付金の一部が未使用額として残った。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度の直接経費の当初の配分は、物品費70万円、旅費5万円、その他経費5万円の総額80万円であったが、この内10万円を前倒しで使用している事から、今年度の交付予定額は70万円である。研究の計画自体には何ら変更がないため、大まかな配分を変更する必要がない。その為、今年度の交付金は、旅費及びその他経費をそれぞれ5万円とし、残りの交付金60万円と前年度の未使用繰越金を物品費に費やす予定である。
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