研究課題/領域番号 |
26450404
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
山口 剛士 鳥取大学, 農学部, 教授 (70210367)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ワクモ / ニワトリ / 薬剤 / ワクチン / 制御 / 外部寄生虫 |
研究実績の概要 |
ワクモは主に鳥類に寄生する吸血性の外部寄生虫で、養鶏産業では吸血による生産性への影響が問題になっている。近年ではワクモ制御で主要な役割を果たす各種薬剤に対し抵抗性を示す集団も出現し、新たな制御技術の確立が急務となっている。本研究では、ワクモの効果的制御法を確立するため、ワクモの薬剤耐性機構解明とワクチン候補分子の探索を行っている。薬剤抵抗性機構の解明では、ワクモ制御に広く用いられているピレスロイド系薬剤の標的分子であるナトリウムチャネルと有機リン系薬剤剤およびカーバメイト系薬剤の標的分子であるコリンエステラーゼ遺伝子に着目し、その塩基配列解明と分子クローニングを試みている。これまでに、ナトリウムチャネル遺伝子についてはORF全領域の塩基配列を明らかにし、真核細胞発現ベクターへのクローニングを完了した。コリンエステラーゼ遺伝子については、予測されるORFの90%程度を明らかにした。また、各薬剤に感受性および抵抗性集団から得た各遺伝子の配列解析により、感受性集団には認められない抵抗性集団特異的なアミノ酸残基の存在を明らかにした。このことは、ワクモの各薬剤に対する感受性が遺伝子診断により迅速に鑑別可能であることを示唆している。ワクチン候補分子の探索では、他のダニ類でワクチン標的分子としての可能性が報告されているセリンプロテアーゼに着目し、ワクモからの検出・精製を試みている。これまでに、ワクモが生活環各ステージで異なるプロテアーゼを発現している可能性を示し、セリンプロテアーゼの精製を進めている。これまでに得られた粗精製画分にゼラチンに対する分解活性があることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ワクモ生活環各ステージにおける網羅的な遺伝子発現解析を実施するため次世代シーケンサーによる解析を計画していたが、解析に必要となる高品質RNAをワクモ虫体から充分量調整することができず解析実施の障害になっていた。しかし、これまでの検討で解析に使用可能な品質のRNA調整法を確立し、当初予定していた網羅的遺伝子発現解析の実施が可能となった。ワクモの生活環各ステージの虫体採取は既に完了しており、直ちに解析に取りかかれる状況にある。当初は網羅的解析実施後の着手を予定していたワクチン候補分子の探索および各種薬剤標的分子の解析による薬剤抵抗性機構の解明については、本法に依存しない方法での解析を実施している。ワクチン候補分子の探索では、ワクモのセリンプロテアーゼに着目し、生活環各ステージでの発現状況を明らかにすると共に、吸血を行う成ダニ♀からの精製を進めている。今後は、これまでに得られた粗精製画分のワクチン効果について検討を進める予定である。またワクチン候補分子の機能解析で必要となるワクモでのRNAi技術を確立するため、当初マイクロインジェクション法を試みたがワクモの死亡率が高く成功には至っていない。そこで現在、浸漬法によるRNAiの可能性を検討するため蛍光標識RNAを用い、RNAiのための至適浸漬条件の検討を進めている。各種薬剤抵抗性の分子機構解明については、ピレスロイド系薬剤の標的分子であるナトリウムチャネルおよび有機リン系およびカーバメート系薬剤の標的分子であるコリンエステラーゼ遺伝子を明らかにし、各標的分子に薬剤抵抗性に関与する塩基置換が存在することを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討で、本研究の基盤となる次世代シーケンサーによる網羅的遺伝子発現解析に必要な高品質RNAの調整が可能となった。今後は、ワクモ生活環各ステージから必要なRNAを調整しこの解析を実施する予定である。ピレスロイド系薬剤の標的分子であるナトリウムチャネルについては、ORF全領域の真核細胞発現ベクターへのクローニングを終えたことから、今後は真核細胞での発現実験により、これまでに明らかにしたピレスロイド系薬剤抵抗性を決定する責任アミノ酸の機能解析に着手する予定である。有機リン系およびカーバメート系薬剤の標的分子であるコリンエステラーゼについては、ORF全領域の解明には至っていないため、5'および3'端塩基配列の解読を進めている。ORF全領域の塩基配列決定後はこれを発現クローニングし、機能解析に供する予定である。また、ワクチン候補分子の探索としてセリンプロテアーゼの粗精製画分を免疫原とし、ワクモに対するワクチン効果について評価を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
網羅的な遺伝子発現解析のため次世代シーケンサーによる解析を計画したが、解析に必要な高品質RNAを充分量調整することができなかった。このため最も多く予算を割り当てたこの解析を実施できず次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
高品質のRNA調整については、年度内に実施した検討により問題が解決した。また、解析の対象とするワクモ生活環の各ステージ虫体の採取も完了し、RNA調整の実施が可能になった。そこでRNA調整完了後、当初予定通り次世代シーケンサーによる網羅的因で誌発現解析に使用する計画である。
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