研究実績の概要 |
最終年度は、マウスの結果を公刊することを目標にしたが採択に至らず、修正版を再投稿中である。研究全体を通じては、以下の成果が得られた。Paraoxonase-1 (PON1) 活性は様々な肝臓疾患で減少することが知られているが、慢性の人獣共通寄生虫症である旋毛虫(Trichinella spiralis) が肝臓での炎症を引き起こし、それらの肝臓への影響ついてはほとんど解析されていない。旋毛虫感染ラットは感染2日後よりPON1 活性が減少し始め7週目まで持続した。同様に血清中のbutyrylcholinesterase (BuChE) 活性も4日目より減少し2週目まで持続した。反対に血清中の炎症性サイトカインであるIL-1、 IL-6、TNF-αとマクロファージ活性化にかかわるMCP-1やMIP-1αの上昇が 寄生虫の腸管内寄生期において顕著に上昇した。また、これに伴って抗炎症性サイトカインである IL-4や IL-10 の上昇が同時期および旋毛虫幼虫の筋肉内寄生期においてもみられた。肝臓内では炎症性細胞の浸潤や肝細胞のアポトーシスも亢進していた。肝臓内のPON1および BuChE のmRNA発現も著しく抑制されていた。ラットにおける旋毛虫感染は肝臓での炎症を誘導し、血清中のPON1 および BuChE の活性を低下させることが明らかになった。論文:Europ. J. Clin. Invest. 2017, 47 (3): 250-261. 一方、マウスで同様の感染実験を行うと、ラットと異なりIL-4、IL-10などのサイトカインが感染初期から増加し、肝臓での障害が軽減された。PON1活性もラットとは異なり、減少は一過性であり、すぐに正常範囲に復帰した。マウスやラットは実験動物として汎用されるが、それぞれの特性を考慮して人の感染症モデルに用いることの重要性が示唆された。
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