研究課題
牛趾乳頭腫症(Papillomatous Digital Dermatitis、PDD)の治療のために、抗生剤(リンコマイシン)・生菌製剤を塗布した病変部を研究に供した。採取したPDD病変部(治療前・治療後の計8サンプル)の細菌叢解析を行った。原因菌(群)を特定するために、次世代シークエンサー(Roche, 454Jr)を用いて、治療前・治療後のポピュレーション解析を実施した。次世代シークエンサーを用いた解析では、Treponema属の検出は治療前材料では高頻度であったのに対し、治療後材料では低頻度であった。さらに、治療後材料からはBacteroides属、Porphylomonas属等が高頻度に検出された。次世代シークエンサーでの解析において、治療後サンプルからもTreponema属が検出された。次世代シークエンサーでの解析はそのリード長から種レベルは可能だが、菌種レベルの解析は困難である。それゆえ、クローニング解析の結果を精査した。その結果、すべての治療前病変から3系統のTreponema属菌が検出されていたが、治療後病変ではT. pahgedenis様菌のみが検出されていることが確認された。以上の結果より、DD病変形成に必須なのは、病変部の優勢菌種であるT. pahgedenis様菌よりもむしろ、T. medium/vincentii様菌あるいはT. denticola/putidum様菌である可能性が新たに示唆された。現在、両解析法により得られた結果を比較しながら取りまとめており、今年度前半中に学術雑誌に投稿する予定である。別途、新規増菌・分離培地を用いて、牛PDD病変部サンプルから難培養性菌(非T. pahgedenis様菌)の分離を試みた。しかし、雑菌の過剰発育が多く、標的菌の分離には至らなかった。
3: やや遅れている
牛PDD病変の治療前・治療後の細菌叢ポピュレーション比較解析は順調に進展している。一方で、本年度、宮崎県内で発生したPDD病変を採取し、新規選択分離培地を使用して、難培養性菌(非pahgedenis TreponemaであるT. medium/vincentii様菌やT. denticola/putidum様菌等)の分離に取り組んでいる。しかし、雑菌の過剰発育が多く、標的菌の分離にはまだ成功していない。それゆえ、分子疫学解析ならびに病原性解析への着手が遅れている。
選択分離培地に添加している抗生剤とは異なるスペクトラムの抗生剤を選択増菌培地に加えて、雑菌を効率的に抑制しながら、標的菌を高頻度に分離できるプロトコールを確立する。さらに得られた分離菌を用いてPDD実験動物モデルを作出した上でPDDの病変を再現することにより、コッホの原則を完全に満たす病原菌(群)を特定する。さらに、各分離菌株の分子疫学解析を実施し、遺伝的相同性を明らかにすることにより、PDDの侵入・感染ルートを解明する。もって、PDDの治療法や防疫対策等の進展に貢献する。
難培養性菌の分離に成功しなかったので、本年度計画していた病原性解析・分子疫学解析を実施できなかったため。
技術補佐員を短期間(3ヶ月程度)新規雇用し、データ解析を進展させ、早期に学術論文を投稿する。そのようにして時間を確保した上で、早急に分離プロトコールを改善し、難培養性菌を分離し、病原性解析・分子疫学解析を実施する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 図書 (1件)
Journal of Veterinary Medical Science
巻: 78 ページ: 1343-1346
10.1292/jvms.15-0459
巻: 78 ページ: 627-632
10.1292/jvms.15-0595
Journal of Applied Microbiology
巻: 120 ページ: 1711-1722
10.1111/jam.13141
Japanese Journal of Infectious Diseases
巻: 68 ページ: 432-433
10.7883/yoken.JJID.2014.450
Frontiers in microbiology
巻: 6 ページ: 1-10
10.3389/fmicb.2015.00270