研究課題/領域番号 |
26450408
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
中川 博史 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (60336807)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 細胞毒性 / ERストレス / 細胞内輸送 / 三量体Gタンパク |
研究実績の概要 |
ERストレスが起こった細胞において、生成された異常タンパクのGolgi装置への輸送を避けるため、ERからGolgi装置までのタンパク輸送(COPII小胞輸送)は抑制されるが、ER膜上でのCOPII輸送小胞の形成がどのように抑制されるのか、その制御機構は不明であった。 平成26年度本研究計画に基づき、ERストレスを惹起された細胞において、COPII小胞を構成するために必要なコートタンパク群のER膜上への集積がどのように抑制されているのかについて解析を行った。ER膜上でCOPII小胞を形成するためには、細胞質からER膜上へと(1)Sar1、(2)Sec23/24、(3)Sec13/31のCOPIIコート構成タンパクが順次移動する必要がある。そこでER膜と細胞質からなるcell free実験系(ミクロソーム結合実験)を用いて、細胞質からER膜へのCOPIIコート構成タンパクの移動を観察した。細胞質局在Sar1タンパクの正常細胞由来のER膜への移動を、tunicamycinおよびthapsigarginによりERストレスを誘導した細胞由来のER膜への移動と比較したところ、正常細胞とERストレス細胞のER膜へのSar1の親和性に違いは認められなかった。 また、もう一方の研究計画の項目であるERストレスにおけるCOPII小胞形成へのER膜局在三量体Gi2タンパクの関与の証明については、百日咳毒素により三量体Gi2タンパクを不活化したER膜を用いて上述のミクロソーム結合実験を行ったが、百日咳毒素によるER膜への事前処置の間にER膜へダメージが起きたと考えられ、有効な結果が得られなかった。その為、研究計画を一部変更しsiRNA法による三量体Giα2タンパクノックダウン細胞の作出を試みた。siRNAによるGiα2タンパクの発現レベル抑制効果は60%程度の低下に過ぎず、ミクロソーム結合実験に用いたが、統計上有意な結果を得られていないため、更なる条件検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成26年度研究計画の中で、ERストレスによるCOPII小胞形成過程への影響を調べる項目について、COPII小胞コート形成の3段階の過程において、ERストレスの影響を調べる計画であった。現在、3段階の過程の中で最初のステップであるSar1の移動について、ERストレスの影響は無いという結果が得られているが。2段階目のSec23/24の移動および3段階目のSec13/31の移動についてはまだ実験が進んでおらず、結論を得ることが出来ない状態である。もう一方の研究計画の項目であるERストレスにおけるCOPII小胞形成へのrER膜局在三量体Gi2タンパクの関与の証明については、前項目の実験が完了していないため、研究計画通りには実施できていない。ただし、tunicamycin処置およびthapsigarginによるERストレス誘導時に、COPII小胞輸送が抑制されていることを、細胞レベルでのCOPII小胞輸送を評価することが出来るGolgi回復実験を行った結果、確認できたため、研究の進捗に著しい遅滞は無いものと考えている。 一方で平成27年度に実施予定であった項目のいくつかについて、先に取り組むことが出来ている。三量体Gi2タンパクのsiRNA法によるノックダウン細胞作出を試みており、効率が悪いもののノックダウンを確認できており、siRNA処置の条件検討の段階に進んでいる。またもう一つの平成27年度実施予定であった抗ラットSar1抗体の作成についても取り掛かっており、試験採血の段階ではあるが得られた抗血清は特異性が高く、実験に使用可能なものであった。
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今後の研究の推進方策 |
直ちに、実施の遅れているERストレスを誘導した細胞由来のER膜を用いたミクロソーム結合実験を行い、Sar1に加えて、Sec23/24およびSec13/31の細胞質からER膜への移動に対するERストレスの影響を観察する。Sar1、Sec23/24およびSec13/31の移動のどの段階にERストレスによる影響が作用しているのかを決定したのちに、三量体Gi2タンパクとの接点を探る。また平成26年度にはERストレス誘導としてtunicamycinおよびthapsigargin処置だけを試みていたが、タンパク折りたたみを阻害するSH基還元剤DTT処置についても検討を行う。DTTは他の作用点も多いと予想されるが、tunicamycinやthapsigarginとは異なる作用機序であることから検討する価値があると考えている。 ミクロソーム結合実験による、COPIIコートのERストレスによるCOPII小胞形成制御抑制への三量体Gi2タンパクの関与を証明するために、Gi2タンパクのノックダウンだけではなく、CRISPR/cas-9システムを用いたノックアウト細胞系を作出し、証明を試みる予定である。不安定で不完全な抑制であるノックダウンではなく、ノックアウトによる完全な発現抑制は、変化を極大化し、解析を容易にすると予想される。また、CRISPR/cas-9システムは本年度になって、コマーシャルベースの簡易なキットが多数販売されている情勢となっており、比較的安価にて、容易に使用できる手法となっているため、検討の価値があると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画の遅れにより、Sec13またはSec31の移動を観察するミクロソーム結合実験に着手できておらず、抗体(Sec13抗体、Sec31抗体、calnexin抗体、β-actin)の購入が計画通りに進まなかった。加えてrER膜局在三量体Gi2タンパクの不活化に用いる百日咳毒素について、現状の実験量では研究室既存の手持ちの分で賄えたため、購入に至っていない。以上より\172,837の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本来の計画の内、未購入の抗体の購入に用いる。具体的にはSec13抗体およびSec31抗体、さらに標準化のために必要なER膜マーカーであるcalnexinに対する抗体、さらに細胞質マーカーであるβ-actin抗体の購入に用いる。また、平成26年度研究においてsiRNA法によるノックダウン細胞を用いた実験にて結果が得られなかったことから、CRISPR/cas-9系によるノックアウト細胞作出に実験方法を一部変更する予定であり、プラスミドの購入費用の一部に次年度使用額の一部を充てる予定である。
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