研究課題
狂犬病の確定診断には、大脳、海馬、脳幹および唾液腺組織を用いた蛍光抗体法が用いられているが、頭蓋骨を開いて脳組織を取り出す作業は時間と設備を必要とするうえ、実験者への感染リスクが高い。また、狂犬病流行国の多くは高温・多湿な気候であり、発病動物の発見時には脳や内臓臓器の腐敗(自己融解)が進み、確定診断に提供されず廃棄することが多い。これに対し、皮膚組織は脳や唾液腺組織に比較し、自己融解が緩慢で末梢神経組織の保存状態がよいうえ、材料採取が容易である。本研究では、狂犬病発症犬の脳に代わる診断材料として鼻口部洞毛組織に着目し、安価で狂犬病死後診断法の確立と狂犬病流行国への技術移転を研究目的とし、下記のような研究成果を挙げた。研究期間中、フィリピン熱帯医学研究所の協力を得て狂犬病発病犬200頭以上の回収を行い、鼻口部洞毛組織、脳および唾液腺について病理組織学的検索を行った。ホルマリン固定後の脳組織と洞毛を用いて抗原検出の感度と特異度を比較検討したところ、いずれも100%となり、洞毛の診断的有用性が確認された。洞毛の中でどの細胞が一番高い染色感度を示すかについて詳細に検討したところ、洞毛の基底膜側に配列するメルケル細胞において強陽性像が観察された。この知見は世界で初めてであり、国際雑誌(J. Virol. Methods.2016)に投稿し、革新的な診断法として高く評価された。上記の新しい診断法の技術移転を目的として、研究期間中フィリピン熱帯医学研究所から共同研究者2名を北里大学に招聘し、狂犬病発症犬の洞毛組織を用いた抗原検出の技術研修会を実施した。今後はアジアを中心に国と地域の枠を広げて多種多様な動物(家畜、伴侶動物、野生動物)における鼻口部皮膚を用いた狂犬病診断法の有用性を検討し、より安価で簡便な21世紀型の新しい狂犬病診断法の確立とその診断技術の国外移転を目指していきたい。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件、 査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
J. Vet. Med. Sci.
巻: 79(6) ページ: 印刷中
10.1292
J. Virol. Methods
巻: 237(40) ページ: 40-46.
10.1016