研究課題/領域番号 |
26450412
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
壁谷 英則 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (10318389)
|
研究分担者 |
丸山 総一 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (30181829)
横山 栄二 千葉県衛生研究所, その他部局等, その他 (40370895)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 志賀毒素産生大腸菌 / 鹿 / ジビエ / 食中毒 / O157 / ゲノム解析 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、2014年9月から2016年3月までに、わが国の13道府県より得られた計305頭(うち平成27年度は191検体)の鹿糞便材料を用いた。10%糞便乳剤を作成し、志賀毒素産生大腸菌(以下STECとする)ならびに血清型O157 STECの分離培養を行った。得られた大腸菌分離株について、PCRによりstx遺伝子の検出された株をSTECとした。 その結果、全体では38検体(12.5%)からSTECが分離された。季節別のSTEC陽性率は、春で13.2%(9/68)、夏で24.1%(20/83)、秋で2.7%(2/75)、および冬で8.9%(7/79)であり、夏の陽性率は秋と冬に比べ有意(P<0.05)に高い値を示した。地域別では、北海道で0%(0/13)、関東(千葉、神奈川、山梨)で11.5%(6/52)、中部(静岡)で9.4%(5/53)、関西(三重、京都、奈良、和歌山)で20.5%(18/88)、四国(徳島)で19.4%(7/36)、九州(長崎、熊本、宮崎)で3.2%(2/63)であった。 さらに38検体から得られた50株のSTEC分離株のうち、9検体から得られた9株(18.0%)は、O157血清を用いた血清凝集試験により血清型O157 であることが確認された。分離株の志賀毒素遺伝子のバリアント別では、stx2c+2dが15株(30.0%)、stx2cが11株(22.0%)、stx2dが6株(12.0%)、stx1aが4株(8.0%)、stx1a+stx2cが3株(6.0%)、stx2aが2株(4.0%)、stx1c+stx2c+stx2dが2株(4.0%)であった(残りの9株は現在検討中)。その他の病原因子としてはeae陽性が15株(28.0)、hlyA陽性が39株(78.0%)であった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、日本全国で捕獲された野生鹿を対象として志賀毒素産生大腸菌(STEC)の分離を行い、得られた鹿由来STEC分離株について、1)O-genotypingによる血清型別、2)24種類の病原関連遺伝子を総合的に解析するPCR-binary typing system(P-BIT)による病原性評価、ならびに3)全ゲノム解析による人ならびに牛由来STECとの比較ゲノム解析、以上3点に絞って研究を実施する計画である。これらの目的のため、平成27年度では、さらなる検体数を増やすことにより、より多様性に富む鹿由来STECを分離することができた。特に、鹿由来O157STEC分離株は昨年度まで1検体由来1株のみであったが、本年度はこれを含め、9検体由来9株得られたことから、最終年度に実施を計画しているゲノム解析に利用できる。来年度以降の病原性解析に使用できる。これまでに得られた50株については、生化学性状試験、ならびに病原関連遺伝子の一部については解析が終了した。 以上から、本研究課題の研究目的に対して、概ね順調に進展していると考えた。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、引き続き、検体収集、STEC分離培養、生化学性状解析を継続して実施するとともに、特に東北地方、中部地方、ならびに四国といった検体数の比較的少ない地域については新たな研究協力を要請することを検討する。 一方、平成27年度より着手している分離株の病原性解析をさらに進める。すなわち、STEC分離株のO-genotyping、ならびにP-BIT解析を遂行する。すなわち、志賀毒素、溶血性、TypeⅢ分泌機構、細胞接着などに関わる24種類の病原関連遺伝子の有無をPCRにより解析し、その保有パターンのクラスター解析を行う。 さらには、これまでに得られたわが国の鹿由来O157 STEC分離株、ならびに病原関連遺伝子の解析から、病原性が疑われるnon-O157 STEC分離株について、比較ゲノム解析、ならびに比較ゲノム解析の成績の元に開発した一塩基多型解析による系統解析を実施し、病原性評価、ならびに家畜や人と、野生鹿との間におけるSTECの伝播について、考察する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、分離株の性状解析をよりいっそう進めることを計画していたが、実際には、全国的な野生鹿のSTEC保菌状況を把握するため、対象地域を広げて検体収集を継続する必要が生じたため、分離株の性状解析の一部を実施しなかった。このため、分離株の性状解析のための予算の支出が計画よりも減額した。
|
次年度使用額の使用計画 |
分離株に対する血清型別に使用する病原大腸菌免疫血清の購入を予定している。平成27年度の研究成果により、計画よりも多くの分離株が得られたため、病原関連遺伝子解析、ならびに比較ゲノム解析のための各種試薬の追加購入を計画している。
|