研究課題/領域番号 |
26450414
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
鈴木 浩悦 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 教授 (50277662)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | mTOR / astrin / 腎臓 / 慢性腎臓病 / 線維化 |
研究実績の概要 |
微小管結合蛋白質のastrinは分裂中期のHeLa細胞で紡錘糸や中心体に局在し、有糸分裂の進行に必要なだけではなく、間期ではmTORC1の活性化に必要なRaptorに結合して、mTORC1の活性に影響を及ぼす。本研究はAstrinの欠損により腎低形成症(HPK)を呈し、慢性腎臓病を発症するラットを用いて、腎臓の発生と病態進行でのastrinとmTORC1経路の役割を解析する。26年度の実験でHPKのネフロン数低下の原因としてキャップ間葉細胞の増殖低下とアポトーシスの亢進が見出され、これにmTORC1の活性化が関与することが示唆されたが、調査した市販抗体でastrin発現細胞を同定することはできず、さらに腎臓の器官培養系でmTORC1抑制剤のエベロリムス(EV)が正常腎発生を攪乱したため、HPKにおけるネフロン減形成に対するEVの効果を評価することはできなかった。27年度は引き続き市販抗体の特異性を検討した結果、ヒトastrinのC末端(aa.942-1193)に対する抗体が、ウエスタンブロットで約140kDa(生後初期精巣)と約200kDa(胎子腎臓)のバンドを検出し、いずれも発症ラットで欠損していた。また、astrin欠損により腎臓の幹細胞が直接影響を受けると言う仮説に基づき、EVの効果を評価するために幹細胞を単離し、未分化状態を維持しながら培養する条件を検討した。以上の実験に時間を費やしたため、生後初期のHPKラットで腎肥大が起こる時期のEv投与については予備実験で終了した。しかし、28年度に予定していた成熟後の病態進行に対するEV投与実験を前倒しして行い、その動物実験をほぼ終了させた。データ解析は途中であるが、HPKラットへの長期間のEV投与は腎機能不全の進行を遅らせ、糸球体硬化と間質線維化の発生を軽減することが示唆されている。従って、HPKラットでのフロン減形成と慢性腎臓病の進行過程の両方でmTORC1の活性化が関与し、EV投与でその病態が一部改善する可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
astrinを検出する有効な抗体を見出すのに時間を要し、さらに27年度にN末端側の発現タンパク質合成とその抗体作製を依頼する予定だった業者が受注業務を停止したため、抗体作製の依頼が遅れた。しかし、幸いなことにヒトastrinのC末端側(aa.942-1193)に対する市販抗体が、ブロッティングにおいてバリアントを含む目的のタンパク質を認識することが判明し、C末端側のラットの配列に対して抗体を作製することでastrinを認識する抗体が得られる可能性が示唆された。また、器官培養ではmTOR抑制剤のエベロリムス(EV)が正常腎発生を攪乱し、HPKでEVの影響を評価することが困難であると考えられたため、HPKにおいて直接影響を受けている可能性がある胎子腎臓の幹細胞を単離・培養し、ある程度未分化状態で維持できる条件を確立した。この培養系を用いれば、幹細胞におけるastrinやmTOR経路の発現を直接調査し、さらにEVによりHPK由来の幹細胞で直接mTOR経路の活性化抑制の効果を調べることができる。これらの実験検討に時間を要したためと、成長期の投与実験においては用量設定が困難であったために、生後初期の腎肥大が見られる時期のEV投与実験について、27年度は予備実験までで終了した。しかし、28年度に予定していた、より長期間を要する成熟後の生後病態進行過程での長期投与についてはその動物実験の大半を27年度中に終わらせることができた。以上の状況から一部の実験で遅れがあるものの、前倒しして進めている実験もあるため、全体としてほぼ順調に伸展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
ウエスタンブロッティングでastrinを同定した市販抗体はヒトastrinのC末端(aa.942-1193)に対する抗体である。これまで調査したN末端側の配列に対する抗体の多くで有用な結果が得られなかった理由の一部は、精巣と腎臓におけるバリアントの存在のためであったと思われる。また、この領域のヒトとラットの配列相同性は78%であり、これが一部非特異なバンドが見られ、免疫染色で用いることができない理由であると思われる。従って、この領域内のラットの配列に対して抗体を作製すれば、より特異性の高い抗体を得られる可能性がある。28年度はC末端側のラットの配列についてタンパク質の発現と抗体作製を業者に依頼する。また、幹細胞の培養系について、幹細胞マーカーと共にastrinやmTOR経路の遺伝子発現を調査すると共に、幹細胞においてmTOR抑制剤エベロリムス(EV)の影響を調査する。さらに、27年度に実施した成熟後の病態進行に対するEVの投与実験については、得られたサンプルの残りの分析と得られたデータの解析を行い、28年度中に結果をまとめる。一方、27年度から28年度に繰り越した生後初期のEV投与実験については、27年度の予備実験の結果を基にして本実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度に予定していた抗体作製を28年度に移行した。これについては依頼予定の業者が受注業務を取りやめたため新たな業者の選定に時間を要したためと、新たにC末端領域に対する抗体を作製する方が有用な抗体が得られる可能性があると判断したたためである。抗体作製費はタンパク質の発現と回収を必要とするため、ペプチド抗体より高額となる。
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次年度使用額の使用計画 |
抗体作製を依頼する予定である。また、腎臓の幹細胞の培養実験、27年度に行う予定であったが、予備実験のみで延期した生後初期のエベロリムス投与実験、当初予定していた成熟後の病態進行過程での投与実験のデータ解析に使用する予定である。
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