微小管結合蛋白質のastrinは分裂中期のHeLa細胞で紡錘糸や中心体に局在し、有糸分裂の進行に必要なだけでなく、間期ではmTORC1の活性化に必要なRaptorに結合し、mTORC1の活性に影響を及ぼすことが報告されている。本研究はAstrinの欠損によりネフロン数が減少し(腎低形成症(HPK))、慢性腎臓病を発症するラットを用いて、その病理発生におけるastrinとmTORC1シグナル経路の関わりを明らかにすることを目的とした。in vivo、器官培養、および細胞培養の一連の実験から、1)単離したネフロン前駆間充織(MM)細胞でastrinが発現し、astrinの欠損によりMM細胞の幹細胞性の異常とアポトーシスの亢進が起こり、これがHPKのネフロン数減少の原因であることが示された。さらに、MM細胞のアポトース亢進のメカニズムにmTORシグナル経路の活性化が関わることが示唆された。2)HPKで観察される生後初期のネフロンの肥大性変化に対するmTORシグナル経路の関与は明らかではなかったが、加齢期でのmTOR阻害剤のEverolimus(EV)の投与は、HPKの多飲多尿や血中尿素窒素の上昇を軽減し、そのメカニズムは線維芽細胞から筋線維芽細胞への形質転換の阻止よりはむしろ間質線維芽細胞の増殖抑制が主なものであった。3)市販抗体および業者委託により作出した抗体では、ウエスタンブロットでastrinを検出することができたが、細胞レベルでasrtinを局在化することはできなかった。そこで、astrinのC末端側252アミノ酸のポリペプチドを大腸菌で発現させ、得られたタンパク質のポリクローナル抗体を作出したところ、この抗体を用いてastrinが増殖中のネフロン形成MM細胞で発現することが確認された。この抗体は一連の実験で明らかになったastrinの機能を解析するのに有用であろう。
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