研究課題/領域番号 |
26450420
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高木 哲 北海道大学, (連合)獣医学研究科, 准教授 (50396305)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 犬 / 組織球性肉腫 / 炎症 / 免疫抑制 / CTLA-4 / CD86 |
研究実績の概要 |
犬組織球性肉腫(HS)において、未分化樹状細胞マーカーであるCD86の高発現が明らかとなっており、この糖蛋白はリンパ球の補助刺激受容体であるCD28およびCTLA-4と結合する。つまり、犬組織球性肉腫自体が宿主の全身免疫に影響を与えている可能性が考慮されることから、今回、組織球性肉腫罹患犬の末梢血免疫状態を評価することを目的とし以下の検討を行った。 平成26年6月~27年3月に北海道大学動物医療センターに来院したHS罹患犬8頭(播種性4頭、局所性4頭)、HS以外の腫瘍罹患犬11頭、正常犬8頭を対象とし、末梢血を採取後、比重遠心法にて末梢血単核球(PBMC)を分離した。PBMCは抗CD28、CTLA-4、PD1抗体により染色、フローサイトメトリーにてCD4、CD8陽性細胞中の発現率を解析した。その結果、CD28、PD1陽性細胞はCD4、CD8ともに群間で有意差は認められなかったが、HS罹患犬のCTLA-4陽性率はCD4陽性細胞では正常犬と、CD8陽性細胞ではHS以外の腫瘍罹患犬および正常犬と比較し有意に増加していた。また、それぞれの血清中IFN-γ濃度をELISA法にて測定したところ、群間に有意差は認められなかったものの、HS罹患犬はHS以外の腫瘍罹患犬と比較し低値であり、正常犬と同等であった。 さらに、HS罹患犬を播種性と局所性、HS以外の腫瘍罹患犬11頭を転移の有無で分け、それぞれ補助刺激受容体の発現を比較したところ、播種性と局所性ではいずれの分子も有意な差は認められなかったが、転移がみられた犬はみられない犬と比較し、CD4、CD8陽性細胞いずれにおいてもCTLA-4の発現が有意に増加していた。 これらの結果から、HS罹患犬はCTLA-4の発現増強が関与した免疫抑制状態にあると推察され、またHS以外の腫瘍ではCTLA-4は腫瘍の進行度と相関する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は組織球性肉腫の症例の来院が比較的少なくデータの収集に難渋したが、幸いにして結果の解析により犬の組織球性肉腫の症例では末梢血中リンパ球において健常犬や他の腫瘍症例と比較して優位に高いCTLA-4の発現を認め、その成果を現在論文として報告する段階までまとめることが可能であった。したがって、この腫瘍の臨床例において強力に免疫抑制をされているであろう事実と、将来的にCTLA-4が有用な治療ターゲットとなりうるという根拠が示せたことは大きな収穫であり、本研究の目的を十分に果たすことが可能であった。今後については症例の蓄積も必要ではあるが、一度この段階での成績を海外学術雑誌に投稿する予定であり、論文自体もほぼ完成している。したがって、この研究については非常に順調に結果が得られ、推移しているといえる。 一方、臨床データの分析を優先させたため、in vitroでの解析は現在まだとりかかっておらず、実験完了の見通しはついていない。ただし、前半分の実験結果が自体が非常に早い段階で良好な成果を得ることができたため、今後は局所での免疫反応について、将来的に可能であればCD86の分子レベルでの解析まで実施したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画として犬の組織球性肉腫の症例が全身的に免疫抑制を生じていることは明らかとなった。CD86は免疫抑制因子としてのCTLA-4に結合する一方で、免疫活性化のシグナルであるT細胞のCD28を介して炎症を引き起こしている可能性がある。このため、本腫瘍は炎症との鑑別診断がしばしば困難となり、さらに著しい炎症を伴って周囲組織と癒着しながら増大するため、しばしば外科的な治療が困難となっている。そこで今後の研究としては全身的免疫抑制が生じている一方で局所では免疫の異常な活性化が生じている機序の一部あるいはその現象自体を確認することを主たる目的とする。 この過程で他の腫瘍症例や他の疾患と比較して炎症マーカーであるCRPの高値が本腫瘍症例において多いことを確認する必要があるし、組織学的にも腫瘍周囲に炎症があることは確認しておく必要があると思われる。ただし、これらの情報は既報にも報告されているため、本施設でのサンプルが解析に問題がないかどうかを検証するステップに過ぎない。 また、現時点ではまずは炎症細胞の分離とその液性因子が腫瘍とどのような相互関係を生み出すのかを解析していく予定である。すなわち、ダブルチャンバー条件にて炎症細胞と腫瘍を混合することから始めていくが、実際に生理的環境下では樹状細胞(組織球性肉腫の起源細胞)とT細胞が直接的に接触することが必要と考えられるため、そのアッセイ系も含めて2年間の研究期間のなかでの大きな検討課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算は概ね計画道理執行しておりわずかながら残額があるが、消耗品など購入時期などによる金額調整上の問題である。
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次年度使用額の使用計画 |
予定通り実験で使用する消耗品などに執行予定である。
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