前年度までの研究成果により、全身的には腫瘍が宿主側の免疫を抑制する状態に誘導していることが明らかとされたが、組織球性肉腫のin situでは周囲との著しい炎症を生じることがよく知られており、最終年度は組織球性肉腫と腫瘍浸潤(関連)線維芽細胞(CAF)あるいは腫瘍浸潤(関連)マクロファージ(TAM)との相互作用を検証することにより、間接的ではあるが本腫瘍と他の腫瘍微小環境との関連性について明らかにすることを目的とした。 症例から分離した線維芽細胞はいずれも正常な線維芽細胞よりも細胞質が大きく、CAFのマーカーとされるαSMAに陽性を示すことを病理組織、蛋白、細胞レベルで確認した。様々な腫瘍で網羅的にCAFの染色を行ったところ、上皮系腫瘍では肛門嚢腺癌や乳腺腫瘍で比較的強い発現が認められたが、組織球性肉腫でのCAFの発現はほぼ認められなかった。 一方、腫瘍に浸潤するマクロファージはCD163陽性およびCD204陽性を示し、局所の炎症反応を増強するような作用ではなく、どちらかというと免疫を抑制するM2マクロファージが存在することが明らかとなった。また、判別は困難であるが組織球性肉腫自体が上記マーカに陽性を示し、M2マクロファージ様細胞様の特徴を有していることが分かった。 細胞間相互作用の健闘のための培養分離あるいは電気磁気分離法により腫瘍組織や末梢血からの線維芽細胞やマクロファージの分離には成功したが、腫瘍細胞との共培養を実現できるだけの細胞数が確保できなかった。これについては今後さらに効率の良い細胞の回収方法を検討する必要がある。 以上より、組織球性肉腫自体は全身および局所において宿主免役を抑制することが明らかとなった。局所での炎症誘導にはこれ以外の生物学的因子、特に液性因子の関与が疑われ、腫瘍培養上清を用いた検討などが必要と思われた。
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