研究課題/領域番号 |
26450424
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
井手 香織 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 講師 (40550281)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | セロトニン / 炎症性腸疾患 / 犬 / 慢性腸症 |
研究実績の概要 |
消化管粘膜組織におけるセロトニン(5-HT)の産生および除去機構の変化は,ヒトの過敏性腸症候群(IBS)および炎症性腸疾患(IBD)の病態に深く関与している。筆者らは過去に犬において,IBD症例群では健常犬群に比べて消化管粘膜組織中の5-HTを産生するEC細胞に相当する5-HT陽性細胞の数が多く,5-HT産生に必要な酵素TPH1の遺伝子mRNA量が少ないことを発見した。また組織中の5-HT除去機構であるセロトニントランスポーター(SERT)とTPH1をコードする各遺伝子のmRNA発現パターンが,健常犬群と比較して逸脱する2パターンが症例犬群に存在することを発見した。 上記の結果として実際の組織中ないし血中5-HT濃度に変化が生じているか否かは明らかでなかったことから,初年度に健常犬および症例犬でこれらを測定することを計画した。5-HT濃度を測定するには一般的に高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が用いられるものの,これを直ちに利用できる環境になく,二次案としてヒトやマウスで消化管粘膜組織中5-HTを測定した報告のあるELISA法を用いて検討した。血中5-HT濃度は,食後の推移から,採用したELISA測定系で測定できている可能性が高いことが分かった。一方,組織中濃度は,犬用として市販されているELISAキットを使用し測定値自体は得られたものの,正確に測定できている確からしさが不十分であり,代替手法について検討を要すると考えている。 また,犬の十二指腸粘膜生検組織からのリンパ球分離法は,参考にしたSoneaらの報告(Vet Immunol Immunopathol, 2000)に改変を加えた手技を確立した。 なお,対象疾患群の検体収集や被検組織における5-HT陽性細胞数,SERT遺伝子・TPH1遺伝子mRNA量の定量も予定通り継続しており症例のデータを蓄積中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【健常犬および症例犬の消化管粘膜組織中および血中セロトニンの定量・比較】 「研究実績の概要」に記載したとおり,消化管粘膜組織中のセロトニン濃度については,当初予定していたELISA法を用いた測定が正確でない可能性が考えられ,高速液体クロマトグラフィー含め別の手段への変更も検討しなければならないと考えている。血中のセロトニン濃度は,採用したELISA測定系の確からしさを確認したため,これを用いることとした。 【トリプトファン可用性によるリンパ球の反応生の検討】 犬の消化管粘膜生検組織からリンパ球を分離する手法については,「研究実績の概要」に記載したとおり,確立することができ,当初の予定通りである。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に計画していた消化管粘膜由来リンパ球を用いた解析(過剰なトリプトファンが存在するときにリンパ球がどのように反応を示すか)を遂行する予定である。リンパ球の分離法は記述の通り手技が確率している一方,分離したリンパ球の培養については,本試験に入る前に条件を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画時に,消化管粘膜組織からセロトニン抽出液を作成する際に凍結乾燥機が必要となることが想定されたものの,その後検討することとなった手法では,現時点までに凍結乾燥処理を行わずに実施可能であったため,凍結乾燥機の購入を見送っている。
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次年度使用額の使用計画 |
犬における消化管粘膜組織中セロトニン濃度の正確な測定方法については引き続き検討する必要性があると考えており,HPLC法ないしその他の異なる手法へ移行する可能性もある。その際に改めて凍結乾燥機が必要となる可能性もあるほか,付随して新たに必要な物品を入手する必要が生じる。 同時に,消化管粘膜組織由来リンパ球を用いたトリプトファン可用性に関する研究を遂行するための試薬類にも予定通り使用する。
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