犬の心房細動(Af)発現時には、わずか発現後30分後より血液凝固能の亢進(凝固因子系および血小板機能)が引き起こされることがこれまでに明らかとなった。そして、その変化を末梢血と心房血とで比較したところ、心房血で血液凝固能の亢進がより顕著であった。また、この変化はAfの持続期間にわたり維持されることも併せて明らかとなった。そのため、犬のAfの発現後には速やかに抗血液凝固治療を開始すべきとの結論に至った。しかしながら、これまでに犬の抗血液凝固治療(主にAf)は未確立のため有効な治療法を模索した。獣医療において抗血液凝固治療として、抗凝固薬である低分子ヘペリンならびに抗血小板薬であるクロピドグレルが、臨床現場で利用されつつある。今回、これら2剤を調査対象薬として選択し、Afモデル動物である高頻度心房刺激犬に対し3週間にわたり投与し、血液凝固能の変化を観察した。その結果、低分子ヘパリン投与後1週間目までは心房血ならびに末梢血で、血液凝固能(凝固因子系)の亢進を抑制可能な傾向であったが、2週目以降は、心房血ならびに末梢血の双方で亢進を抑制できなかった。また、当然ながら薬理効果以外である抗血小板効果は見いだせなかった。一方、クロピドグレル投与後は、末梢血で血液凝固能(血小板機能)の亢進を抑制可能であった。しかし、心房血では血液凝固能(血小板機能)の亢進を抑制することができなかった。また、薬理効果以外である凝固因子系抑制効果は見いだせなかった。今回、両薬剤で心房血における血液凝固能(凝固因子系と血小板機能の双方)の亢進が抑制できなかった理由として、Af状態が持続しているため心房機能の低下も維持されたことで、同部位での血液うっ滞が重度であったものと推定した。そのため、犬のAf時の血栓予防・治療として、抗血液凝固治療にみでなく、心房機能の改善を勘案した治療を併用する必要があると結論づけた。
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