研究課題/領域番号 |
26450429
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
高木 光博 山口大学, 共同獣医学部, 教授 (40271746)
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研究分担者 |
宇野 誠一 鹿児島大学, 水産学部, 准教授 (50381140)
音井 威重 徳島大学, 生物資源産業学部, 教授 (30311814)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 家畜 / マイコトキシン / 尿 / 共浸潤 / 健康 |
研究実績の概要 |
これまでに、Fusarium属真菌由来マイコトキシン(MT)で、エストロジェン類似作用を持つことから家畜に繁殖障害を引き起こす可能性が示唆されるゼアラレノン(ZEN)、およびAspergillus 属真菌由来MTで、アフラトキシン B1 (AFB1) 生合成過程の中間物質であるステリグマトシスチン (STC) に着目し、それらの尿中濃度をモニターすることで飼養環境下の牛群におけるZENとSTCの共浸潤動態やマイコトキシン吸着剤 (MA) 添加効果を明らかにしている。本年度は黒毛和種繁殖雌牛群における尿中ZEN濃度と繁殖成績との関連性を検証するとともに、卵巣内の胞状卵胞ポピュレーションを反映する血清中抗ミューラー管ホルモン(AMH)濃度の測定を行って、ZEN浸潤による内分泌撹乱作用の有無、および牛群の繁殖性に与える影響の一端を明らかにすることを目的とした。黒毛和種繁殖牛群2群を選定し、分娩後30日に尿および血液のサンプリングを行うとともに、超音波診断装置を用いた生殖器の詳細な観察を行った。尿サンプルはLC/MS/MS法により尿中ZENとその代謝物であるα-ゼアラレノール (ZOL) およびβ-ZOL濃度の測定を行った。さらに血中AMH濃度を測定し、2群間での比較検討を行った。その結果、尿中ZEN濃度が有意に高い牛群において、AMH濃度は有意に低い結果となり、ZEN浸潤動態と血清中AMH濃度との関連性が示唆された。一方、繁殖成績ではZEN濃度が高い牛群において分娩後空胎日数が有意に短い結果となり、低レベルZEN浸潤は繁殖性に直接的な影響を及ぼすものではないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(目的1)牛群における複数のマイコトキシン(MT)による共浸潤動態解明のため、液体クロマトグラフィー質量分析 (LC/MS/MS) 法による尿中ステリグマトシスチン (STC) 測定法を確立し、申請者らの尿中ゼアラレノン(ZEN)濃度のデータベースを基に、ZENとSTCとの共浸潤動態を初めて明らかにして、我が国の飼養環境下におけるMT共浸潤動態検証の足掛かりとする。 (理由) これまでにLC/MS/MS 法による尿中STC測定法の確立、およびZEN汚染牛群由来保存尿を用いた尿中STC濃度測定を既に終えている。得られた成果は世界牛病学会にて口頭発表するとともに、Toxinsに論文として掲載済みである。さらに、前述したように黒毛和種繁殖雌牛群における尿中ZEN濃度と繁殖成績との関連性を検証するとともに、血清中AMH濃度の測定を行って、ZEN浸潤による牛群の繁殖性に与える影響の一端を明らかにして、その成果の一部は既にReprod Dom Animに論文として掲載済みである。加えて、ZEN汚染牛群由来尿をサンプルとしたガスクロマトグラフィー測定を既に終えており、得られた成果の一部は2016年7月にダブリンで開催される、世界牛病学会にて発表予定である。
(目的2)ZEN暴露が生殖能に与える影響を、免疫調節撹乱作用の視点から検証するために、新たにウシ卵管上皮細胞 (BOEC) の体外培養系をモデルとしたZEN添加試験を行い、ZEN暴露によるBOECの生存性や自然免疫調節関連遺伝子の発現動態に対する影響を初めて明らかにする。 (理由)これまでにウシ精子とBOECの体外共培養系を用いたZENへの暴露試験を実施し、BOECの炎症性サイトカイン関連遺伝子IL-1βとTNF-α、および抗炎症性サイトカイン関連遺伝子PGEs、IL-10およびTGF-βの発現動態に関する実験成果を得ており、現在はその成果を論文として執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
尿サンプル数をさらに増やして、飼養環境下の牛群におけるMT共浸潤動態に関するデータベースをさらに集積するとともに、これまでに得られた血清サンプルを用いてAMH濃度測定を行い、内分泌撹乱物質としてのZENの生体における影響や、MT浸潤が繁殖性に与える影響の調査を継続する。さらに、ZEN汚染牛群由来尿をサンプルとしたガスクロマトグラフィーを既に終えており、今後得られたデータを詳細に検討してMT汚染による代謝機能の異常発現の有無を明らかにして、速やかに論文発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に行った複数のマイコトキシンの共浸潤がウシの代謝に与える影響に関する研究論文を投稿する予定であったが、所属機関の異動にともなう進捗状況の遅れのために、論文投稿料や別刷り料など、年度内に支払うことが出来なかった。さらに、消耗品も購入する予定であったが、上述の理由による実験の遅れのために次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の理由で生じた次年度使用額は論文投稿料と別刷り料、および購入予定の消耗品費等に充てる。
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