研究課題
本研究の目的は日本の犬と猫におけるインフルエンザウイルスおよびヘパシウイルス感染状況を明らかにすることである。平成26年度より全国の動物病院に来院した家庭飼育犬および猫、保護施設にて採材した特定の飼主のいない犬および猫、奄美大島および対馬など離島の野良猫の検体を入手した。平成27年度はこれらの動物における各種インフルエンザウイルス抗体保有状況を解析した。方法として、ヒト季節性インフルエンザウイルス(H3N2およびH1N1)、犬インフルエンザウイルス(H3N2)、馬インフルエンザウイルス(H3N8)、高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1およびH5M8)を用いたHI試験および中和試験を実施した。その結果、犬インフルエンザウイルスに対する抗体保有動物は認められず、これまでに日本国内で流行した可能性は低いことが明らかとなった。しかし一部の犬が馬インフルエンザウイルスに対して陽性を示したことから、これらの犬は馬インフルエンザウイルスあるいはこれに近縁のウイルスに暴露された経歴を有することが示唆された。また家庭飼育犬および猫の1 -3%程度がヒト季節性インフルエンザウイルスに感染歴があることが明らかとなった。H3N8亜型馬インフルエンザウイルスに対する抗体陽性が確認された鹿児島県内の保護施設において、鼻腔スワブ80検体を採取しウイルス分離を試みているが、現在までにインフルエンザウイルスは分離されていない。犬および猫においてAおよびB型インフルエンザウイルスの抗体検出法の確立を目的として、Gaussa luciferase immunoprecipitation (GLIP) 法の確立に着手したが、確立には至らなかった。そのためGST融合蛋白質を抗原としたELISA法を確立し、本法を用いてAおよびB型インフルエンザウイルスの抗体価保有状況について検討を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究では日本国内の犬および猫のヘパシウイルスおよびインフルエンザウイルスに対する感染状況を明らかにすることである。平成26年度はGaussa luciferase immunoprecipitation (GLIP)法によるヘパシウイルス抗体価測定法およびreal-time PCR法による血清中のウイルス遺伝子検出方法の確立を行うと同時に、全国から様々な生活環境の犬および猫の血清検体採取を開始した。平成27年度も引き続き検体を収集すると同時に、これらの血清を用いてインフルエンザウイルス抗体保有状況についてHI試験と中和試験を行い解析した。その結果全国の犬および猫の間で犬インフルエンザウイルスの流行は起こっていないものの、様々な動物種由来A型インフルエンザウイルス株に対して感染歴がある可能性が示唆された。この結果を受けて、本調査にA型インフルエンザウイルスに対する抗体保有状況についての網羅的な測定を加えることとした。我々はまず、動物種に限らず血清中の抗体を簡便かつ高感度に検出できるGLIP 法に着目した。カイアシルシフェラーゼを融合させたA型インフルエンザウイルス由来M1およびNP蛋白質を、HEK293細胞で発現させたが、この発現蛋白を用いたGLIP法では感受性および特異性は認められず、確立には至らなかった。そこでGST融合大腸菌発現蛋白を合成し、これを抗原としたELISA法を実施することとした。現在までにGST融合NPおよびM1蛋白の精製が終了し、いずれもウェスタンブロッティングによって犬および猫血清との反応性を確認している。ELISA法確立のための条件検討を行い、平成28年度前半には測定系が確立する見通しである。鹿児島県の保護施設の犬から馬インフルエンザウイルスに対する抗体陽性例が2頭確認されたことから、本施設に保護されている犬および猫から鼻腔スワブ検体を採取し、ウイルス分離を試みたが、ウイルス分離には至らなかった。平成28年度も引き続き検体を採取し分離を試みる予定である。
検体の収集は今年度も引き続き実施する予定である。今年度より新たに中国地方における保護施設を加え、血清および呼吸器症状の流行が認められた場合には鼻腔スワブも加えて検査を継続して行う予定である。3年間で採取したすべての検体について、GLIP法によるヘパシウイルス抗体測定およびreal-time1 PCR法による遺伝子検出法を用いて、犬および猫におけるヘパシウイルス感染状況を明らかにする予定である。インフルエンザ感染状況については、今年度前半にA型およびB型インフルエンザ抗体測定法を確立し、これを用いてA型およびB型インフルエンザウイルスに対する抗体価測定を実施する。最終年度である平成28年度は得られた結果を総合的に考察し、日本獣医学会および日本獣医内科学アカデミーにて発表し、学術論文への投稿を行う予定である。特に馬インフルエンザウイルスに対して抗体陽性を示す個体が認められたことは、国内では過去に例がない。北米では2006年に馬インフルエンザウイルスが犬に感染し、その後犬同士での感染拡大が認められた。現在日本にこのウイルスが侵入した、あるいは類似の現象が起こっているとは考えにくいが、散発的に馬インフルエンザウイルスあるいはこれに近縁なウイルスの感染が起こっている可能性が示唆され、今後の監視が必要であると思われる。
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