本研究の目的は、国内の犬と猫におけるインフルエンザウイルスおよび非霊長類ヘパシウイルス感染状況を明らかにすることである。平成26年~28年の3年間にわたり、全国の飼育犬699頭と猫123頭、国内2か所の保護施設で飼育されている犬116頭と猫96頭の血清検体を収集した。 これらの検体の非霊長類ヘパシウイルスNS3蛋白に対する抗体価を、平成26年度に確立したGaussia luciferase immunoprecipitation (GLIP)法を用いて確認したところ、陽性例は認められなかった。またA型インフルエンザウイルスについてはGST融合大腸菌発現NPおよびM1蛋白質を精製し、これを抗原としたELISA法を試みたが、おそらく犬や猫には大腸菌由来蛋白質あるいはGSTに反応する個体が存在するものと思われ、十分な感度と特異性のある検査系の確立に至らなかった。そのため、馬由来H3N8、犬由来H3N2、人由来H1N1およびH3N2亜型インフルエンザウイルスを用いたHI試験と中和試験による検討を進めた。その結果、家庭飼犬699頭のうち、14頭(2.0%)が人由来H1N1亜型、4頭(0.6%)が人由来H3N2亜型ウイルスに対して抗体陽性を示し、また馬由来H3N8亜型ウイルスに対して1頭(0.1%)が陽性であった。保護施設の犬116頭のうち2頭(1.7%)が人由来H1N1亜型、2頭(1.7%)が馬由来H3N8亜型ウイルスに対して陽性を示した。一方、猫については家庭で飼育126頭のうち3頭(2.4%)が人由来H1N1に陽性であった。保護施設由来の猫はいずれのウイルスに対しても陽性を示す個体は認められなかった。これまでに犬におけるH3N8亜型ウイルス感染例は国内では報告されておらず、一部の犬は馬インフルエンザウイルスあるいはこれに近縁なウイルスに暴露された経験がある可能性が示唆された。
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