緑内障は視神経に障害をきたす進行性の難治性疾患である。ヒトだけでなく犬においても有病率が高く、緑内障で一度失った視野は回復しないため、早期発見・早期治療が極めて重要な疾患である。緑内障の発症には遺伝要因が関与していると考えられており、遺伝要因を解明することは疾患の早期発見・早期治療に繋がることが期待される。我々のグループはこれまでに、犬とヒトに共通する緑内障発症の遺伝要因としてSRBD1遺伝子を見出している(PLoS ONE 2013)。本研究では、SRBD1遺伝子を対象に詳細な解析を進め、緑内障とSRBD1遺伝子の相関性を明確にする。 平成27年度までに、柴犬、シー・ズー犬、アメリカン・コッカー・スパニエル犬、ミニチュア・ダックスフンド犬、ビーグル犬を対象に、SRBD1遺伝子領域を網羅する計19個のSNPsについて関連解析を実行し、柴犬とシー・ズー犬において緑内障と有意に相関するSNPsを複数検出している(P<0.05)。一方、他の3犬種の個々では、緑内障と有意に相関するSNPは認められなかったものの、3犬種の結果を統合したメタ解析により、緑内障と相関の可能性を示唆するSNPsを複数検出している(P<0.10)。 平成28年度は、平成27年度までに検出されたSNPsとSRBD1遺伝子の発現量の関連を網羅的に調査するため、SNPsが位置する犬のSRBD1遺伝子領域に対応するヒトSRBD1相同領域内のSNPsを対象にSRBD1遺伝子の発現量を評価した。その結果、ヒトSRBD1相同領域内のSNPsの多くがSRBD1遺伝子の発現量の変動に有意な影響を与えていることが分かった。また、本研究で用いた5犬種を対象に19個のSNPsのメタ解析を行った結果、SRBD1 SNPsと緑内障の相関パターンが犬種によって異なることが分かった。
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