研究実績の概要 |
哺乳動物の生殖細胞の性は胎子期に周囲の生殖腺体細胞の性ならびに機能によって決定され、その結果、雌は卵巣内で卵のみを、雄は精巣内で精子のみを産生する。しかしながら、MRL/MpJマウスの精巣では、胎子期から新生子期にかけて精細胞だけでなく卵細胞も観察される。これまでの研究から、胎齢12.5-14.5日のMRL/MpJマウスの精巣では精巣頭尾側辺縁に位置する一部のXY始原生殖細胞が減数分裂に移行して卵細胞へと分化することがわかっている。また、これらの精巣内卵細胞は右側で左側よりも有意に多くみられる。 本研究は精子しか産生しないはずの精巣が卵細胞を産生するメカニズムを明らかにし、哺乳動物における生殖腺、および生殖細胞の性分化機構を解明することを目的としている。 本年度は、精巣内卵細胞産生と精巣あるいは卵巣の分化ならびに機能マーカーの発現の関係を検証した。まず、胎齢13.5日のMRL/MpJマウス精巣を精巣内卵細胞が多く産生される領域である辺縁部と産生されない領域である中央部に分離し、これらの領域で精巣の分化機能マーカー(Sox9, Fgf9, Cyp26b1)および卵巣の分化機能マーカー(Wnt4, Rspo1, Fst)の発現を比較した。また精巣内卵細胞産生の指標として、減数分裂マーカー(Rec8, Sycp3)の発現も比較した。精巣内卵細胞産生領域である精巣辺縁では、精巣の分化機能マーカーであるSox9およびCyp26b1の発現が非産生領域より有意に低い一方で、卵巣の分化機能マーカーは有意に高かった。また、左右間でも上記遺伝子を比較した結果、右側では左側よりもSox9の発現が低く、卵巣の分化機能マーカーの発現が高い傾向にあった。このことから、MRL/MpJマウスの精巣は一部卵巣としての性質を有し、生殖細胞の雌性化と関連していることが推測された。
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