細胞保護作用を持つグリア伝達物質の放出機構について検討するために、培養脊髄アストロサイトに対する虚血条件刺激と細胞外プリン化合物濃度の変化について検討した。細胞外プリン化合物濃度は、虚血条件のなかでも低Caと低グルコースによって増加したが、低酸素では変化しなかった。一方、低Ca条件下で低酸素に曝露すると、低酸素によってアストロサイトからのプリン化合物放出が生じた。また低グルコース条件下で低酸素に暴露しても、低酸素によるさらなるプリン化合物放出は観察されなかった。以上の結果から、虚血条件下では、低Caや低酸素刺激が複合的に作用することで、神経保護作用をもつアデノシンなどのプリン化合物が細胞外に蓄積することが示唆された。 また神経保護作用を有する硫化水素のアストロサイトにおける産生について検討した。脊髄アストロサイトとニューロンの共培養系において、硫化水素産生酵素であるシスタチオニンβシンターゼ(CBS)はアストロサイトに局在して発現していた。アストロサイト/ニューロン共培養系からニューロンを除去すると、アストロサイトにおけるCBS発現量は有意に減少した。また共培養系を受容体チロシンキナーゼ阻害薬で処置すると、アストロサイトのCBS発現量は低下した。以上の結果から、アストロサイトのCBS発現を維持するためにはニューロンの存在が必要なこと、またこの機序としてEGFやFGFなどの成長因子の関与が示唆された。中枢疾患の病態下でニューロン死が生じると、アストロサイトのCBS発現が低下し、硫化水素産生能が損なわれている可能性が考えられる。
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