研究実績の概要 |
“乳”を産生する泌乳牛の体温は、季節や飼育環境などによる外気温の変化や乳産生にともなう代謝熱の影響で頻繁に変動する。また、泌乳牛の体温変動に伴って乳質や乳量が変化する。外気温が27度を超える暑熱ストレス下において、平常時よりも体温上昇した泌乳牛では、乳量低下、乳成分異常、体細胞数増加などの症状が認められる。また、寒冷ストレス下でも乳汁分泌能は低下し、ヒトの乳汁分泌過多症の対処療法としても乳房の局所的冷却が行われている。そこで乳腺には温度を感知するセンサーが存在し、その温度センサーが乳分泌能を制御していると考え、温度変化にともなってカルシウム等の陽イオンの透過性を活性化させるTRPチャネルについて調べた。 泌乳期の乳腺には4種類の温度感受性TRPチャネルとしてTRPM2, TRPM4, TRPM8, TRPV4が発現していることがmRNAレベルで確認された。これらのTRPチャネルが感知する温度域は各々で異なっており、TRPM4およびTRPM8は体温より低い温度域で、TRPM2およびTRPV4は体温以上の温度域で活性化することが知られている。また、泌乳期乳腺におけるTRPM8とTRPV4の局在を調べたところ、どちらも乳汁分泌細胞である乳腺胞上皮細胞に発現していることがわかった。ウエスタンブロッティングの結果、培養した乳腺上皮細胞においてもTRPV4とTRPM8が発現していることも確認された。 続いて、in vitroにおいて乳汁分泌を誘導した乳腺上皮細胞を用いて、TRPM8とTRPV4のアゴニスト/アンタゴニストが及ぼす影響について調べた。その結果、TRPM8とTRPV4の活性化/不活性化は代表的な乳成分であるカゼインやblood-milkバリアを構成するクローディンの発現を調節することがわかった。
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