白色脂肪細胞は、過剰のエネルギーを脂肪として蓄えるのに対して、褐色脂肪細胞は、エネルギーを熱として消費する。両細胞は互いに連携してエネルギー代謝を調節しているので、連携の破綻は肥満に繋がる。TGF-βファミリーは、TGF-β群、アクチビン群、BMP群に大別される細胞成長・分化因子群で、多岐にわたる生物現象を制御する。TGF-βファミリーは、白色ならびに褐色脂肪前駆細胞の分化過程において中心的な役割を果たしている。しかしながら、分化した脂肪細胞におけるTGF-βファミリーの役割は未知である。ALK3 (BMP・GDF群の I型受容体)遺伝子のアミノ酸置換を伴う一塩基多型と肥満度に関連があること、ALK7 (I型受容体)遺伝子の変異も肥満と関係することが明らかにされている。しかしながら、TGF-βファミリーの作用点は明確でなく、分子機構の詳細も不明である。研究三年目は、TGF-βファミリーが白色脂肪細胞の機能をどのように調節しているかを網羅的に検討した。 その結果、TGF-βファミリーは脂肪細胞の遊離アミノ酸含量に影響を及ぼすこと、インスリンによるアルギニン、グルタミン酸、フェニルアラニン含量の減少はTGF-β1、アクチビンA、アクチビンBによって増強すること、一方、グルタミン濃度はBMP4あるいはBMP7によって減少することが明らかになった。また、TGF-βファミリーは、脂肪細胞におけるアミノ酸異化酵素発現を制御することが明らかになった。さらに、クエン酸回路を構成する代謝物濃度は、TGF-βファミリーの単独投与によって変化しない一方、インスリンによるクエン酸回路代謝物量の増加をアクチビンA、BMP4ならびにBMP7は増強することが明らかになった。以上の結果は、TGF-βファミリーはリガンド依存的に脂肪細胞の代謝を調節することを示唆している。
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