Adamdec-1(ADAM-like protein decysin-1)はメタロプロテアーゼに属し、細胞外マトリクス分解に関与する。ほかに、インテグリンへの機能干渉、生理活性因子の機能調節、細胞内シグナルの増強作用、細胞骨格因子の形成など、広い生理調節作用を有する。Adamdec-1は胎盤での発現が報告されており、妊娠生理において重要な役割を担っている可能性がある。本研究では、マウス胎盤におけるadamdec-1の動態変化と胎盤内血管系への関与について解析した。 C57BC/6Jマウスでは、胎盤のadamdec-1は妊娠の進行に伴って増加し、10.5日でピークを示した。免疫染色の陽性部位は脱落膜らせん動脈周囲に集簇するNK細胞で顕著であった。CBA/J♀とDBA/2♂を掛け合わせた自然流産発症モデルで発現動態を調べると、妊娠後期でもadamdec-1は高発現しており、らせん動脈は対照群に比べ大型であった。ヒト臍静脈血管内皮細胞株(HUEhT-1)は、adamdec-1の添加により、管状構造のサイズ拡張が誘導された。VEGF含有マトリゲルをマウスの腋窩に埋め込み、in vivoで血管新生作用について分析した。Adamdec-1を腋窩へ追加投与すると、マトリゲル内の新生血管が増加し、周囲間葉組織の既存血管が拡張した。妊娠マウスにリコンビナントadamdec-1を腹腔投与すると、胎盤迷路部における胎子毛細血管の管腔が拡張した。 胎盤においてadamdec-1は子宮NK細胞から産生・分泌され、血管拡張・血管新生作用により胎盤の血流を増大させ、妊娠の成立・胎児の成長に寄与すると示唆された。
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