研究課題/領域番号 |
26450446
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
荒谷 康昭 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科, 教授 (30192470)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 自然免疫 / 好中球 / ミエロペルオキシダーゼ / 活性酸素 / 炎症 |
研究実績の概要 |
好中球は自然免疫系に属する主要な白血球であり、種々の活性酸素を産生して感染の初期生体防御を担っている。ミエロペルオキシダーゼ(MPO)は好中球のみに存在する酵素であり、過酸化水素から次亜塩素酸(HOCl)が産生する反応を触媒する活性酸素の代謝酵素である。本研究は、MPOのノックアウトマウス (MPO-KOマウス)が、生菌感染時だけでなく、単に酵母の細胞膜成分(ザイモザン)などに曝されるだけで、非感染的に重篤な肺炎を発症するという興味深い現象のメカニズムを探ることを目的としている。先行研究において、MPO-KOマウスの好中球が野生型好中球よりも好中球走化因子であるMIP-2を過剰に産生すること、そして、その過剰産生が原因で肺組織中のMIP-2量が過剰になり、さらに多量の好中球が集積して炎症がさらに重篤化する可能性が高いことを明らかにしている。そこで、平成26年度は、ザイモザンの刺激を受けたMPO-KO好中球がMIP-2を過剰産生するメカニズムの解明を研究課題として掲げて遂行した。その結果、①好中球がザイモザンを貪食しない限り、MIP-2は産生しないこと、②MPO-KO好中球は、野生型好中球よりもザイモザン貪食能が顕著に高いこと、③その貪食能の亢進が引き金の一つとなってMIP-2遺伝子発現のためのシグナル伝達系が過剰に活性化されている可能性があること、④MPO-KO好中球では、MIP-2だけでなく、その他の多くの炎症性メディエーターの遺伝子発現も亢進していること、などを明らかにした。以上の結果は、MPOが欠損してHOClを産生できない好中球は、生体内で炎症性メディエーターの異常上昇を引き起こす可能性を示唆している興味深い知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究開始当初に立案した平成26年度の研究計画である、MPO 欠損好中球がMIP-2を過剰発現するシグナル伝達機構の解析、の副題として掲げている「貪食能の解析」と「種々のサイトカイン類の遺伝子発現における活性酸素の影響」に関する研究は順調に進み、非常に興味深い新知見が得られたことは大きな成果である。学術論文としてまとめる作業を開始している。一方、上記の2課題についての研究を重点的に遂行した結果、平成26年度の第3の副題として掲げた、MPO-KOマウスと食細胞NADPHオキシダーゼのノックアウトマウスの比較解析に関する研究に着手できていない。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの達成度の欄に記載したように、進捗に少々の遅延があるが、本研究課題を解決するための端緒と位置づけられる興味深い知見が着実に蓄積している。したがって、平成27年度は26年度に実施した研究を継続して精力的に遂行し、本研究の目的である各種炎症性疾患の発症における好中球機能異常のリスクを暴いていく。また、少々遅延している論文執筆作業にも力を注ぐ。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度の研究計画として掲げた3課題のうちの2課題について非常に興味深い知見が得られたため、この2課題を重点的に遂行した。その結果、残る1課題に着手できていないため、これに要する薬品類を26年度には購入しなかったため、次年度使用額が生じた。また、当初立案していた国外学会発表は、実施中の研究がさらに進展してからの方が好ましいと判断したため、その結果としての次年度使用額も生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度に未着手の第3の課題について早速着手する。その研究遂行に必要な薬品類は、次年度使用分を使用して購入する。平成27年度の研究計画についても当初の予定どおり開始するので、そのための物品費および国内旅費としても使用する。また、国外学会発表も立案しているので、そのための費用としても使用する計画である。なお、50万円以上の備品は購入しない。
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