研究課題
白血球の一種である好中球は様々な活性酸素を産生して生体防御を担っている。ミエロペルオキシダーゼ(MPO)は好中球のみに存在し、過酸化水素から次亜塩素酸への反応を触媒する。我々は、MPO欠損(MPO-KO)マウスに酵母細胞壁成分のザイモザンを経鼻投与すると、野生型マウスよりも重篤な好中球性肺炎を誘発することを見いだし、MPO-KO好中球からのMIP-2の過剰産生がその肺炎重篤化の一因であることをすでに明らかにしていた。そこで、平成27年度は、その他の炎症性サイトカイン類の発現量を解析した。野生型およびMPO-KOマウスにザイモザンを経鼻投与すると、24時間後の肺組織中のMIP-1α/β,IL-1α/β,TNF-α量がMPO-KOマウスで高値を示し、これらの炎症性メディエーターの過剰産生もMPO-KOマウスの肺炎重篤化に寄与していることが示唆された。その産生源を知るために、単離好中球にザイモザンを添加して培養上清中への分泌量を測定したところ、いずれの炎症性メディエーターもMPO-KO好中球の方が野生型好中球よりも高値を示した。また、これらの過剰産生は遺伝子発現レベルで制御されていることがリアルタイムPCR法で示された。シグナル伝達系を解析した結果、p38/NF-κB経路と ERK/NF-κB経路の両方が関わっており、興味深いことに、MPO-KO好中球のERK1/2は野生型よりも強く活性化することを見いだした。以上から、MPOの欠損によってより強く活性化されたERK/NF-κB経路が、種々の炎症性メディエーターの過剰発現を誘発し、MPO-KOマウスの炎症重篤化を助長している可能性が示された。
3: やや遅れている
研究開始当初に立案した、MPO 欠損好中球がMIP-2を過剰発現するシグナル伝達機構の解析、の第1の副題として掲げている「種々のサイトカイン類の遺伝子発現における活性酸素の影響」に関する研究は順調に進み、非常に興味深い新知見が得られたので、国際学会と国内学会で発表し、学術論文として受理された。一方、副題の第2に掲げている「貪食能の解析」と第3の副題である「MPO-KOマウスと食細胞NADPHオキシダーゼのノックアウトマウスの比較解析」の解析も順調に展開できており、すでに国内学会発表を行い、学術論文を執筆中であるが、未だ受理されるには至っていない。
現在までの達成度の欄に記載したように、進捗に少々の遅延があるが、本研究課題を解決するための端緒と位置づけられる興味深い知見が着実に蓄積している。したがって、平成28年度は26年度と27年度に実施した研究を継続して精力的に遂行し、本研究の目的である各種炎症性疾患の発症における好中球機能異常のリスクを暴いていき、論文執筆を完了させる。
本研究に掲げている副題2と3に関する学術論文を現在執筆中であるが、平成27度中に投稿するまでには至らなかったので、その投稿費用が平成28年度に繰り越された。
物品費、旅費、人件費、その他を従来どおり適正に使用する。本年度も多種多様の高額な試薬類を必要とするので、予算の多くを消耗品の購入に充てる。また、数回の国内学会発表を立案しているので、そのための旅費も計上した。なお、50万円以上の備品は購入しない。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件) 備考 (1件)
J Allergy Clin Immun
巻: 138 ページ: 1458-1461
10.1016/j.jaci.2016.04.047
Inflamm. Res.
巻: 65 ページ: 151-159
10.1007/s00011-015-0899-5
J. Leukoc. Biol.
巻: 99 ページ: 7-19
10.1189/jlb.3HI0814-393R
http://yaratani.sci.yokohama-cu.ac.jp