研究課題/領域番号 |
26450449
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
尾畑 やよい 東京農業大学, 応用生物科学部, 教授 (70312907)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | DNAメチル化 / ゲノムインプリンティング |
研究実績の概要 |
昨年度までに、DNAメチル基転移酵素DNMT3A2とDNMT3Lを過剰発現するトランスジェニックマウスが、インプリント遺伝子以外の遺伝子の発現異常を伴い、出生後に致死となることを報告した。本年度は、トランスジェニックマウスの心臓および脳よりDNAを採取し、インプリント遺伝子群と発現異常を呈した遺伝子群のCpGアイランドあるいはプロモーター領域について、DNAメチル化解析を行った。 内在性のDNMT3A2とDNMT3Lはメチル化インプリントが確立する時期の生殖細胞でしか発現していないが、これを胚発生過程を通じて恒常的に発現させたトランスジェニックマウス(8週齢)では、野生型マウス(8週齢)と同様に、父方メチル化インプリント遺伝子H19および母方メチル化インプリント遺伝子Igf2r、Lit1、Zac1およびSlc38a4のアレル特異的なメチル化が維持されていた。このことから、インプリント領域のクロマチンは、体細胞分裂期の細胞においてDNMT3A2およびDNMT3Lがアクセスできない構造であることが示唆された。一方、トランスジェニックマウス複数ラインで、共通して遺伝子発現に変動が認められた6遺伝子のメチル化型を解析した結果、全ての領域において、野生型マウス(8週齢)と比較してトランスジェニックマウス(8週齢)で有意に高メチル化されていることがわかった。次いで、これらの異常なメチル化が個体形成過程でいつ生じるのか解析するために、胎齢9.5および12.5日、生後0日のトランスジェニックマウス(胚)よりDNAを採取し解析した。その結果、胎生期では野生型マウス胚と同程度のメチル化状態であるのに対して、出生後からトランスジェニックマウスで有意に高メチル化状態になることが示された。従って、これらの領域は、個体発生過程でDNMT3A2およびDNMT3Lにアクセス可能な状態になる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は平成27年度当初計画通りに進んでおり、インプリント領域外にトランスジェニックマウスと野生型マウスでメチル化レベルが大きく異なる領域を見つけることができた。DNAメチル基転移酵素の過剰発現マウスが異常なDNAメチル化を伴って致死となることを直接的に示すことができた。また、興味深いことに、全てのDNA領域が高メチル化される訳ではなく、インプリント領域や恒常的に発現するハウスキーピング遺伝子は、メチル化異常が生じていない。本研究の課題である"DNAメチル基転移酵素アクセス可能領域”を追跡することは既に遂行できた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、DNAメチル基転移酵素DNMT3AとDNMT3Lが個体発生過程で結合できる領域の特徴を理解するために、メチル化異常が生じた領域のヒストン修飾について解析する。 これまでの他の研究者の報告で、卵母細胞形成過程ではヒストンH3K4の脱メチル化酵素を欠損すると、一部のインプリント領域において、DNAメチル化修飾が生じないことが示されている。しかし、ヒストンH3K4のゼロメチルがin vivoにおいてDNAメチル基転移酵素にアクセスするための絶対条件なのか否かは明らかでない。そこで、トランスジェニックマウスで異常なメチル化が生じた領域のヒストンH3K4のメチル化状態を解析する。 具体的には、1)野生型新生仔マウスの心臓からクロマチンを抽出し、2)ヒストンH3K4抗体、H3K4モノメチル抗体、H3K4ジメチル抗体およびH3K4トリメチル抗体に対してそれぞれ免疫沈降を行う。次いで、3)メチル化異常領域特異的定量PCRを行う。この解析によって、メチル化異常領域のヒストンH3K4の修飾状態を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は、実験補助者を雇用せずに、また、研究を外部委託することなく、研究を遂行することができた。そのため、支出の多くは消耗品となり、当初計上した予算より小額で解析を進められた。一方、平成28年度に実験を予定しているヒストン修飾の解析は、最近の論文の傾向として、当初計画より精度の高い実験が求められるようになってきている。平成28年度の研究に支出するために基金化することが妥当と考えた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度には、解析のバリエーションを増やすために、抗体を当初計画よりも多く購入する他(消耗品)、免疫沈降を行うためのキットを購入する予定である。
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