哺乳類の成熟卵子は排卵後に一定時間内に受精が起こらなければ、継時的に老化し受精能や個体発生能を喪失する。この現象は、「排卵後の卵子の老化(postovulatory oocyte aging)」とよばれ、発生工学分野や不妊治療において重要な課題となっている。本研究課題では、ヒストン脱アセチル化酵素の阻害剤であるニコチンアミドによる卵子老化抑制の分子機構を明らかにすることにより、卵子老化のアセチル化異常と発生能低下の分子機構を明らかにすること、卵子老化抑制技術の開発を目的としている。これまで本研究課題を通じて、老化卵子の細胞質のアセチル化異常における核の果たす役割について明らかにしてきた(Lee et al. 2016)。今年度は、卵子老化における核以外におけるアセチル化の役割を明らかにする研究を行った結果、ヒストン脱アセチル化酵素阻害トリコスタチンA処理した老化卵子においてオートファジーが上昇することを見出した。そこで逆にオートファジーを上昇させることが知られているmTORの阻害剤pp242で処理したところ、オートファジーが上昇することが明らかとなった。さらにこの処理により排卵後の卵子老化に見られるアポトーシスによる細胞質の断片化が抑制される結果が得られた。このように本研究を通じて老化卵子において高アセチル化によりオートファジーが誘導されることおよびオートファジーを誘導するmTORシグナルの阻害が卵子の老化抑制に有効であるという新たな発見に至った。
|