本研究では、SP細胞の生成に関わるABCトランスポーター・Bcrp1に着目し、その生理的作用として酸化ストレス応答による品質管理について、マウスES細胞のH2O2曝露によるモデルを用いて明かにすることを目的とする。本研究期間における成果を以下に記す。 1.SP細胞と非SP細胞亜集団におけるBcrp1およびc-Mycの発現動態:平成26年度は、マウスES細胞中のSP細胞亜集団は非SP細胞亜集団と比較して、Bcrp1、特にBcrp1 mRNA isoform Aの発現が有意に高く、c-Mycが制御因子のひとつであること、さらに、Sox2 の発現がSP細胞亜集団で有意に高いことを示した。また、Bcrp1特異的阻害実験から、SP細胞亜集団はBcrp1依存的に生成することを明らかとした。 2.野生型ES細胞におけるH2O2曝露後のBcrp1およびc-Mycの発現動態:平成26~27年度は、マウスES細胞をH2O2曝露後、短時間でc-MycおよびBcrp1、特にisoformAの発現が増加する傾向がみられ、c-Mycの リン酸化の亢進とBcrp1タンパク質の増加が認められることを示した。 3. Bcrp1特異的阻害条件下におけるH2O2曝露後のBcrp1およびNanogの発現動態:平成28年度は、Bcrp1が酸化ストレス条件下においてマウスES細胞の品質維持・管理に果たす役割について検討し、H2O2曝露下でのFTC処理は、Nanogの発現を有意に低下させること、FTC処理によるNanogの発現低下は、NACを処理することで回復することを示した。 以上の結果から、マウスES細胞におけるH2O2曝露に対するBcrp1の役割について、c-Mycの転写亢進、c-Mycのリン酸化とBcrp1の生成を介してNanogの発現維持に関与することで、幹細胞の品質維持・管理の一端を担っている可能性が示唆された。
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