研究課題
前年度の研究成果として、(成熟卵に精子を顕微注入して得られる)顕微授精卵におけるDNA修復遺伝子の発現について検討したところ、Direct reversal of damageに関与するMGMT遺伝性、single-strand damageに関与するUDG、XPCならびにMSH2遺伝子、さらにdouble-strand damageに関与するCRCC6ならびにRAD51遺伝性の発現に関してRT-PCRに検索を行ったが、発現量に差がなかった。そこで、今年度は、成熟段階以前の卵、すなわち、卵胞より採卵直後の卵核胞期の卵(GV卵)、やや減数分裂が進行した卵核胞後期の卵(GV-L卵)、卵核胞崩壊後で成熟が進行段階にある第一減数分裂中期の卵(M-I卵)と、第二減数分裂中期の成熟卵(M-II卵)で、これら6遺伝子の発現を調べたところ、UDGの発現がM-I卵ならびにM-II卵で、XPCの発現がM-II卵でそれぞれ他の成熟段階の卵(GV卵~GV-L卵ならいびにGV卵~M-I卵)に比べ有意にアップレギュレートしていた。さらに、MSH2およびRAD21遺伝子においても成熟が進行するにつれて発現量が増加する傾向が認められた。これらの結果から、凍結乾燥精子を顕微授精された受精卵においては、卵の成熟培養中にDNA修復遺伝子が蓄積するか、あるいはDNA修復遺伝子の発現量が増加する可能性が示唆された。これらの成果はAnimal Science Jornalに受理された。昨年度にひきつづき顕微授精卵の移植実験を行った。15 mMトレハロース処理の凍結乾燥精子を顕微注入し、10時間後に借り腹雌豚に移植を行った。3頭に移植したがいずれも妊娠に至らなかった。前年度の4頭に加え計7頭でネガティブな結果が得られた。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、超低温保存が不必要な遺伝資源の保全法の可能性として、家畜(ブタ)における精子の凍結乾燥保存に関する研究を行う。1) 凍結乾燥の際に生じる精子DNA断片化の軽減を目的に、適切な凍結乾燥用の溶液の添加物を選択しその効率化を図る。次に、2) 精子注入卵における断片化DNAの修復機構、とくに修復機構に関与する遺伝性発現について調べる。さらには、3) 世界初となる家畜の凍結乾燥精子からの産子作製を目指す。平成25年度は、1)の目的に従い、トレハロースの効果についての知見を得た。さらに昨年度は2)のDNA断片化を修復する6つの候補遺伝性についてはRT-PCRに検索を行ったが、発現量に差がなかった。そこで本年度は、初期の計画にはなかった追加実験を行い、卵の成熟が進行するにつれ特定のDNA修復遺伝子の発現量が増加する可能性が示唆され、論文発表も行ったことから、研究はおおむね順調に進捗していると判断した。一日得で、3)の顕微授精卵(胚)の移植実験については成功例を示せなかったことから、最終年度で引き続きチャレンジする。
平成28年度の研究実施計画引き続き、高発生能を示す胚が得られることを確認し、レシピエント豚に受精卵もしくは胚移植を行い、産子作製を目指す。産子作製が成功したら論文発表を行う。
予定していた特定の試薬の使用を行わなかったため。
次年度に使用する。
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Animal Scinence Jounral
巻: 87 ページ: 0-0
10.1111/asj.12554.