昨年度までに、Bactrocera属の果実害虫ミバエ3種について、化学感覚受容体をコードする遺伝子配列を同定した。さらに、アフリカツメガエル卵母細胞を用いて、ミカンコミバエの2種類の受容体の機能解析に成功した。今年度は、これら2種類の受容体について、寄主果実から報告されている揮発成分への応答を詳細に解析した。その結果、BdorOR13a が 1-octen-3-olに濃度依存的に強い応答を示した。また、BdorOR82aがgeranyl acetate に濃度依存的に強い応答を示すと同時に、farneseneとlinalyl acetateに弱い応答を示した。さらに、新たにミバエ類の直腸フェロモン腺に含まれるマイナー成分に応答する受容体を特定した。 応答の認められた4種化合物について室内行動試験を行った。ミカンコミバエ成虫がこれらの化合物を含ませた濾紙に誘引されるか調べたところ、誘引活性はほとんど認められなかった。しかし、白色あるいは緑色のボールを置いたところ、交尾後の雌成虫が1-octen-3-ol、geranyl acetate、farneseneに有意に誘引された。その一方で、これらの化合物は未交尾のメス成虫の行動に対して影響を及ぼさなかったため、交尾の前後で揮発性物質への応答が変わると考えられる。さらに、雄成虫は1-octen-3-olとfarneseneに対して有意に忌避行動を示した。同一の化合物に対して雌雄で引き起こされる行動が異なることが示唆された。 本研究によって、受容体の機能を解析することで、ミバエ類の行動に影響を及ぼす化合物の同定につながることが示された。ミバエ類には検疫対象の害虫、飼育法が確立されていない種、年に一度しか発生しない種もいるため、飼育虫を用いずに実験室内で誘引候補物質を同定することが可能になることが期待される。
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