研究課題
カイコに感染するBombyx mori nucleopolyhedrovirus (BmNPV)のゲノムに存在する5つのBROファミリータンパク質による細胞内mRNA機能調節について解析を進めてきた。BROBとBROEには、カイコ細胞のTIA-1相同性タンパク質と相互作用して、イントロンを持たない特定のmRNAからのタンパク質生産量を減少させる働きがある。この働きの詳細を調べるため、BROB/E強制発現細胞内でのリポーター遺伝子mRNA量の変動について調べた。この結果、BROB/Eの強制発現は、イントロンの有無にかかわらずmRNA量には影響しなかった。このことから、BROB/Eによるタンパク質生産抑制効果は、mRNAの完成した後の翻訳語調節であることが考えられた。一方、BROAおよびBROCはBROB/Eとは異なるC末端側配列を持つタンパク質であるが、BROA/Cを強制発現することにより、レポーターmRNAからのタンパク質生産量が2-3倍程度増大することが判明した。この効果は、レポーターmRNAのイントロンの有無に影響されなかった。さらに、qPCRを実施したところ、BROA/Cを強制発現した細胞では、レポーターmRNA存在量の増大が見られた。このように、BROファミリータンパク質の働きの間には大きな違いのあることがわかり、この違いはC末端側のアミノ酸配列の違いによりもたらされることが考えられる。mRNA量と翻訳タンパク質量増大効果を持つBROAを発現するカイコ個体を得るための遺伝子組換え操作を行い、現在までに目的の遺伝子を持つ3系統を得た。カイコ組織および個体全体でのBROAの効果を調べることにより、BROファミリーのカイコ個体内での働きを明らかにすることができると期待される。
2: おおむね順調に進展している
本研究において、BROB/Eの効果は、mRNAの翻訳後調節によるものであることがわかり、細胞内でのBROファミリーの機能的解析による新たな科学的事実を見出すに至った。また、BROファミリー内での構成分子間での機能的カタログ化にも成功しており、BmNPVの緻密な増殖戦略の詳細に迫る知見を得るに至っている。このことは、当初の研究目的の達成に値する。さらに、BROファミリータンパク質を染色体に組み込んだカイコを得ることに成功し、BROファミリーの個体組織での詳細な役割の解明の足掛かりも作った。このような理由から、本研究は概ね順調に進展していると考えている。
BROファミリータンパク質のmRNA機能調節機構をさらに明らかにするため、今年度は、転写抑制細胞内でのBROファミリーによるmRNA寿命への影響解析を方策とする。この解析により、BROタンパク質によるBmNPV感染時のmRNAの安定性の調節や、機能の調節の機構が明らかになるものと期待される。さらに、カイコ個体でのBROファミリーの人為的発現によるmRNA機能の改変を行うことにより、カイコ個体内でのBROの機能解析を行うとともに、カイコのタンパク質生産能力の人為的改変にもつながることが期待される。
242円の残額が生じたが、あまりにも少額であるため、研究の目的で使用できなかった。
次年度の経費と合わせて、研究遂行に必要な消耗品購入に使用する。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Journal of General Virology
巻: 96 ページ: 1947, 1951
DOI 10.1099/vir.0.000136
Scientific Reports
巻: 5 ページ: 11051
DOI: 10.1038/srep11051