研究課題
昆虫の変態、羽化や成長などの現象は、主に脳で合成される神経ペプチドにより引き起こされる。我々は、神経ペプチドの分泌機構の解明を目的として低分子量GTP結合蛋白質であるRabに着目した。本研究ではRabの内、3種のRab(Rab7,Rab27,RabX4)に焦点を合わせ、次のことを本研究では明らかにする。(1)飢餓状態でのRab7の転写制御機構の解明(2)軸索,アラタ体,前額神経節でのRab27とRab27に結合するエフェクターの機能の解明(3)RabX4の立体構造解明と神経細胞内での局在性の解明昨年までに(1)については、定量的PCRの結果からRab7の制御は転写以外の制御機構で調節されていることを明らかにした。当該年度では、主に(2)と(3)において研究を行った。(2)においてホールマウント法を用いて、研究当初はRab27が神経ペプチドを分泌する器官であるアラタ体に局在するとした。しかし、アラタ体の切片を用いた蛍光2重染色を行った結果、アラタ体にはRab27ではなくRab3とRab6が局在した。そして、Rab3とRab6は昆虫のinsulin-like peptideであるBombyxinと同じ局在を示した。Bombyxinの分泌機構が、insulinの分泌機構と比較してどのように違うかをRabを通じて今後は明らかにする。(3)においては当初のRabX4ではなく、昆虫特異的RabであるRabX6のGDP結合型の立体構造を明らかにした。この蛋白質の構造を他のRabと比較するとGDPと結合する箇所は共通の構造を有していたが、Rabと結合するEffector 蛋白質と結合する部分の立体構造に他のRabには見られない特殊な立体構造を有していた。このことは昆虫特異的なRabが新規の機能を有していることが示唆される。
2: おおむね順調に進展している
カイコ脳内における飢餓状態でのRab7の誘導においては、脳のRNAを用いた定量的PCRを行った結果、転写レベルでの制御は行われていないことがわかった。そのため、この誘導は翻訳レベルで制御されていることが考えられる。昆虫のRabの結晶構造においては、GDP結合型の昆虫特異的Rab(RabX6)の立体構造を明らかにすることができた。この蛋白質の構造を他のRabの構造と比較するとGDPに結合する箇所は共通の構造を有していたが、Rabに結合するEffector 蛋白質と結合する部分の立体構造に他のRabには見られない特殊な立体構造を有していた。以上2点においては、順調に進展している。アラタ体において発現しているRabにおいては、研究当初はホールマウントの結果からRab27がアラタ体に存在するとされていたが、細部にわたっての局在を明らかにするためにアラタ体の切片を用いた蛍光2重染色を行った。その結果、アラタ体にはRab27ではなくRab3とRab6が存在することを明らかにした。そして、Rab3とRab6は昆虫のinsulin-like peptideであるBombyxinと同じ局在を示した。この結果は学術誌 Histochemistry and cell biology に投稿した.
飢餓状態でのRab7の転写制御機構について得られた結果は、学術誌に投稿する予定である。GDP結合型の昆虫特異的Rab(RabX6)の構造については、更にもう一度結晶を作り細部にわたる構造を明らかにした後、学術誌に投稿予定である。RabX6についてはGDPではなくGTPのアナログと結合と結合する結晶構造を明らかにする。そして、他の昆虫Rab(RabX4,Rab39,Rab26)においても予備実験において大腸菌において多量に発現していることがわかったため、Rabを精製後結晶化を行う。なお、Rab26とRab39においては動物においても今までに立体構造は明らかにされていない。前額神経節でのRabの局在性においては、アラタ位に比べて組織が小さいために、ホールマウント法を用いて今まで抗体を得られたRabについて行う予定である。また、Rabが局在する場合、前額神経節で発現する食欲を制御するホルモンとの局在性を調べる。RabX4においては、脳やアラタ位での局在性を蛍光2重染色法により明らかにする。
当初は、Rabについての抗体を作成予定であったが、大腸菌で発現した蛋白質を精製するのに手間取って期間中に作成できなかったため。なお、抗体作製については、精製した蛋白質を得た後、ほぼ2ヶ月を要する。
Rabについての抗体を作製し、カイコの切片を用いた蛍光2重染色を行う。
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Histochemistry and Cell Biology
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