研究課題/領域番号 |
26450468
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
宇野 知秀 神戸大学, 農学研究科, 教授 (80240852)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | Bombyx mori / Rab / 脳 / ボンビキシン / 昆虫 / 免疫組織化学 / 分泌 / 神経ペプチド |
研究実績の概要 |
昆虫の変態、羽化、成長などの現象は、昆虫の脳・神経系で合成される神経ペプチドにより引き起こされる。一方、低分子量GTP結合蛋白質であるRabは、蛋白質やペプチドの細胞内での輸送に関与する。我々は、昆虫の神経ペプチドの分泌におけるRabの生理的・生化学的役割を明らかにするために、昆虫のRabの免疫組織化学的・生化学的解析を行った。 具体的には(1)飢餓状態でのRab7の転写制御機構の解明(2)軸索、アラタ体、前額神経球でのRab27とRab27に結合するエフエクターの機能の解明(3)RabX4の立体構造解明と神経細胞内の局在性の解明を行った。(1)については、定量的PCRの結果からRab7の制御は転写以外の制御機構で調節されていることを明らかにした。(2)においては抗体を用いた免疫組織化学的解析により、動物とは異なり昆虫のRab27はRab3と同じ神経細胞には局在しないことを明らかにした。次にRab3と昆虫の神経ペプチドの局在性を比較したところ、Rab3は、昆虫のinsulin-like peptideであるbombyxin合成細胞(脳に局在)とbombyxin分泌細胞(神経ペプチド分泌器官であるアラタ体に局在)に共局在した。更に、新たに作成したRabの抗体を用いた免疫組織染色により、bombyxin合成細胞とbombyxin分泌細胞に局在する新しいRabを見つけ出した(3)RabX4については、結晶化が成功しなかったが、昆虫特異的RabであるRabX6のGDPと結合する立体構造を明らかにした。このRabは、エフエクターと結合する箇所に新規の構造を有していた。免疫組織化学的解析により、RabX4は、脳とアラタ体の特定の神経細胞に局在し、bombyxin合成細胞と分泌細胞に共局在した。また、RabX6は、脳よりも精巣に特異的に発現していることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
飢餓状態におけるカイコ脳内におけるRab7の発現誘導は、転写により制御されていないことをカイコ脳のmRNAを用いた定量的PCRにより明らかにした。次に、昆虫のRabの抗体を用いた免疫組織化学的解析を行った。動物では、Rab27はRab3と同じエフエクターに結合し、同様の機能を持つことが知られている。しかし昆虫のRab27はRab3と同じ局在性を示さなかった。この結果、昆虫のRab27は昆虫特異的な機能を持つことが示唆される。次に、昆虫の神経ペプチドの局在性を検討したところ、Rab3は昆虫のinsulin-like peptideであるbombyxinの合成細胞(脳)と分泌細胞(アラタ体)に共局在した。新たにRabの抗体を作成し、脳とアラタ体を用いた免疫組織化学的染色を行ったところ、bombyxin合成細胞と分泌細胞にRab39,Rab19とRabX4は共局在した。次に、昆虫に特異的であるRabX6の立体構造を結晶構造解析により明らかにした。この構造はGDP結合型であるためにGTPのアナログと結合した結晶を作成することを試みている。また抗体を用いた組織染色により精巣に特異的にRabX6が存在することを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
RabX6については、GTPのanalogと結合する結晶を作成することを試みる。動物で結晶構造の得られていない昆虫のRabの結晶化も試みる。また、RabX6やRabX4に結合するエフエクターについて、GST-pull downや免疫沈降によりエフエクターを分離した後、質量分析によりその一次構造を明らかにする。RabX4とRabX6の免疫組織染色に関するデーターを用いて、論文を投稿する。Rab39のエフエクターであるキネシンの一種UNC109やRab19のエフエクターであるautophagy関連蛋白質ATG5の抗体を作成し、カイコ脳やアラタ体でのRab39やRab19との局在性を比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初はRabのエフエクターについての抗体を期間中に作成予定であったが、発現蛋白質を精製するのに時間がかかったために、期間中に抗体を作成できなかった。なお、抗体作成については2か月を要する。
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次年度使用額の使用計画 |
精製された抗原を用いて、ラットとウサギで抗体を作成する。得られた抗体を用いてカイコの脳やアラタ体の切片を用いた蛍光2重染色を行う。
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