研究課題/領域番号 |
26450473
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研究機関 | 独立行政法人国際農林水産業研究センター |
研究代表者 |
中村 逹 独立行政法人国際農林水産業研究センター, その他部局等, 主任研究員 (40373229)
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研究分担者 |
古川 誠一 筑波大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (10391583)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ヤドリバエ / 免疫作用 / in vitro飼育 |
研究実績の概要 |
昆虫の細胞性免疫を担う血球細胞は、小型の異物に対しては貪食、大型の異物に対しては包囲化作用などを使い分けることによって様々なタイプの異物に対処することが知られている。この寄主免疫を回避するヤドリバエの戦略を明らかにするために産卵様式の異なる2種のヤドリバエ、ブランコヤドリバエ(Exorista japonica)とDrino inconspicuoidesの寄生に対する寄主アワヨトウ幼虫の影響を調査した。総血球細胞数、血球細胞種の割合、そして異物への付着率を調べた結果、全てにおいて大きな変化は見られなかった。また寄生済みアワヨトウ由来体液を用いた微小ビーズへの包囲下も非寄生由来のものと同様に起こっていることが観察されたことから、寄生によってシステミックな寄主免疫システムが大きく侵されることはないことが示唆された。一方寄主体内に侵入したヤドリバエ幼虫を調べたところ、幼虫の外側に殻のような構造がありこの殻がメラニン化されることはなかった。この殻からDNAを抽出し遺伝子を調べたところ、アワヨトウ由来であることが示唆された。 さらに、寄主体内でのヤドリバエ幼虫の行動を直接観察するため、in vitroで幼虫飼育を試み、これに成功することができた。ヤドリバエ幼虫は寄生蜂が寄主体内で皮膚呼吸するのと異なり、寄主体内で呼吸するためファネルと呼ばれる漏斗状の呼吸器を形成することが知られている。このファネルは、古くから寄主免疫と関係すると考えられてきたことから、我々もこれの由来や作用機作の調査をin vitroで進めた。その結果、ファネルは、寄主体液を含む培地では形成されたが、体液を含まないものでは形成されないことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
両ヤドリバエの寄生によるシステミックな免疫抑制は検出できなかったものの寄生幼虫の周りにメラニン化を生じない殻が存在していることが明らかとなったことで、ヤドリバエの寄主免疫回避メカニズム解明へのターゲットを見いだすことに成功した。さらに、難しいと考えられていたin vitroでのヤドリバエ飼育に成功し、これにより寄主の免疫作用と関係が深く、血清により作られると考えられていたファネルの形成に、寄主の血清は必要ないものの、体液そのものは必要であることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
ヤドリバエ幼虫を取り囲む殻の由来や形成機構を調べるため、形態観察および分子生物学的手法を用いた解析を行う。また殻や寄主血球細胞で発現する遺伝子を網羅的に解析することにより、ヤドリバエ幼虫がメラニン化されない原因の特定を試みる。計画ではヤドリバエが寄生できる昆虫と、できない昆虫の免疫反応の比較を行う予定であったが、当初寄生できないと考えられていた寄主にも寄生できることが明らかになり、このため、寄生できない寄主に対する実験ができなかった。今後は調査する昆虫グループの範囲を広げることによって,それぞれのヤドリバエが寄生できない昆虫を発見し、比較材料とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の雇用が予定どおり進まなかったことから、人件費として計画していた費用約35万円の予算執行を次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は実験を予定どおり実施する。このため人件費の他、分子生物学関連試薬、飼育関連飼料などの購入と、本年度得られた成果をスペインで開催される国際学会で発表する計画である。
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