わらなどの主成分であるセルロースの糖化の効率化のため、セルラーゼなどの細胞壁分解酵素をあらかじめ発現する形質転換植物の開発が進められている。しかし、外来の酵素発現量が微量であることや、セルラーゼの発現によって生育期に生長・形態異常が生じる場合がある。そこで本研究では、我々がコムギから単離した乾燥誘導性Wdhn13プロモーター、低温誘導性タンパク質WLT10の細胞外排出シグナルを利用して、糸状菌由来の外来セルラーゼを収穫直前の稲わらで発現するイネの開発を行う。発現を植物の発生の最後の時期(収穫直前)の細胞間隙で行うことにより、生育期の形態異常を伴うことなく外来セルラーゼを安定して発現できるようになると考えられる。 今年度は、昨年度に引き続いて、糸状菌由来の3種類のセルラーゼをコードする遺伝子にWLT10由来のシグナル配列を付加し、Wdhn13プロモーターにそれぞれのキメラ遺伝子を連結したコンストラクトを導入した形質転換植物(イネ、シロイヌナズナ)の作製を進めてきたところ、形質転換シロイヌナズナについては、全てのコンストラクトについて複数系統のホモに固定化された系統を得ることができた。そのうちの、エンドグルカナーゼを導入した系統を用いてセルラーゼ活性を測定したところ、高いセルラーゼ活性を持っていることを確認できた。セルラーゼ遺伝子を発現させた場合、植物体の表現型に悪影響が出ることが報告されているが、今回のコンストラクト導入によって顕著な生育異常や形態変化は認められなかった。また、セルラーゼの発現を収穫後のわら特異的にするために、老化時に特異的に発現する遺伝子のプロモーターの探索と単離も行った。 以上の結果は、セルラーゼ発現による生長や形態異常の回避に乾燥誘導性プロモーターが有用であることを示し、セルラーゼを用いた植物の糖化性の向上が期待できる可能性を示している。
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