本研究の目的は,源流域河川の流量変動と流路内障害物が河川水の懸濁物質濃度に及ぼす影響について明らかにし,懸濁物質の新たな流出負荷量推定モデルを提案することであった。成果は,1)閉鎖性水域の汚濁負荷対策で重要な栄養塩の年流出負荷量の変動パターン,2)水環境保全に配慮した森林管理法,及び3)流木の流出制御法を検討する際に有用となる。申請者は7年前に中国山地中部に試験流域を設け,水文観測と河川地形測量を続けており,この観測体制を強化・活用することで本目的にアプローチした。 懸濁物質の流出に流木が及ぼす影響を把握するために,流木の除去実験と投入実験を行う必要があった。実験ではコントロール流域と処理流域を設け,「両流域のキャリブレーション(1年目)」,「除去(2年目)」,「投入(3年目)」の順に処理する計画であった。しかしながら,1年目は実験予定であった河川の量水堰堤周辺において豪雨時に生産された土砂の排除に時間を要し,コントロール流域を設けることができなかった。このため,申請時に代替手法として提示していた単独流域法を用いる計画に変更した。 2年目以降は比較的順調に進み,平水時の食塩水トレーサ注入実験により,流路内からの流木(小径流木;ログジャムの目詰まり要素)の排除がトレーサ流下速度に与える影響は,流路区間の河床変動の規模に左右されることがわかった。さらに,中小出水における河川水の濁度を調べた結果,流木除去により濁度は1~2桁高まる結果が得られた。しかし,3年目の途中から平水時であっても濁度計がレンジオーバする場合が頻繁に起き,流路に流木が集積して水位観測が不能になるなどの不具合も生じた。このため,現在濁度観測と流木投入の研究手法上の限界を整理中であるが,懸濁物質濃度の流出負荷推定には,流木動態に加えログジャムに関連する土砂動態を考慮することが不可欠であると結論づけられた。
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