前年度までに、微小酸素電極を用いて組織内部の酸素濃度の低下が確認されたサツマイモの茎サンプルから、低酸素培養条件で窒素固定細菌が分離されることを示した。そこで今年度は、軟寒天培地を用いて低酸素条件を形成し、アセチレン還元活性を指標としてサツマイモ体内に感染する窒素固定菌の探索を行った。 表面殺菌をしたサツマイモの茎、葉柄、根および塊根の抽出液を、炭素源としてリンゴ酸や乳酸を含む軟寒天培地で培養したところ、どの植物部位からもアセチレン還元活性を示すサンプルが得られた。これらのサンプルは、軟寒天培地上の異なる位置にペリクルの形成が見られたことから、窒素固定活性の発現に適した酸素分圧が異なる菌が感染している可能性が考えられた。アセチレン還元活性の認められたサンプルから、好気的条件および嫌気的条件で菌の分離を行い、コロニー形態や生育特性が異なる多数の菌株を得た。純粋分離した菌株は、それぞれ軟寒天培地を用いてアセチレン還元活性を測定し、窒素固定活性を示す菌株を選抜した。分離した窒素固定菌は、16S rRNAの部分塩基配列を決定し、分子系統樹を作成した。これらの解析の結果、組織内部に低酸素部位を持つサツマイモ体内には、酸素分圧の低い条件で窒素固定を行う多様な属の細菌が感染していることが明らかになった。また、塊根とそれ以外の部位では、感染する窒素固定菌の種類が大きく異なることも明らかになった。地上部と地下部に感染する菌では、窒素固定活性が発現する培地に含まれる炭素源が異なることから、植物体内における窒素固定菌の分布は、組織から供給される炭素の組成に影響される可能性が考えられた。
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