平成29年度は,申請書に記載した「セイタカワダチソウの密度が異なる実験区における昆虫相の調査」や,「草原の節足動物の捕食-被食関係の解明」,「阿蘇地域の草原性節足動物の環境復元に関する食物網の数学的解析」に取り組んだ.本年も熊本地震による調査への影響は払拭することはできなかったものの熊本地震による調査地域の道路の復旧状況に合わせて調査を進め,地震後1年の節目にあたりオオルリシジミの生息地の被害状況などの調査結果についてNHKにより取り上げられ全国放送された.本年も本種を含む希少な草原性チョウ類の発生状況に関する調査を継続するとともに,草原性昆虫の捕食-被食関係に関する野外調査および室内実験を実施した.これらの知見に基づきオオルリシジミを中心とした食物網の詳細な分析をとりまとめ,外来種の侵入によりオオルリシジミの生息環境が脅かされている状況を含めた解析を進め数学モデルを提唱した.その成果の1部は,Far East Journal of Applied Mathematicsに論文としてとりまとめることができた.また,熊本地震が外来植物を含む草原生態系に及ぼした影響についてとりまとめ,日本生態学会大会において発表した.また,オオルリシジミをめぐる食物網の特徴と外来種駆除による保全の可能性について「昆虫と自然」誌に総説を投稿し掲載されるとともに,オオルリシジミの現状について,我が国における研究の進展をとりまとめた.なお,「昆虫と自然」において本種の特集号の編纂に取り組み評価を得ている.さらに「図説日本の珍虫 世界の珍虫」においてオオルリシジミの現状について解説した.
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