研究課題
有性生殖を行うほぼ全ての動物種の精子頭部には、アクロソーム(先体)とよばれるゴルジ体由来の特殊な細胞小器官があり、その内部にはさまざまな加水分解酵素が含まれている。ACRBPは、ブタ精子からセリンプロテアーゼアクロシンの前駆体(プロアクロシン)と共精製されたアクロソームタンパク質である。マウスの精巣では、Acrbp mRNA前駆体の選択的スプライシングにより2種類のACRBPタンパク質 (ACRBP-WとACRBP-V5)が産生される。最近の我々の研究から、ACRBP-WとACRBP-V5を両方欠損したマウスでは、精子形成過程でアクロソーム顆粒の凝集や伸長化がおこらず、精子アクロソームが断片化することが見い出された。この知見はACRBPと細胞骨格因子との相互作用を示唆するものであり、実際にACRBPとアクチンやチューブリンとの結合が確認されている。したがって、本研究ではACRBPのアクロソーム形成における分子メカニズムを主に細胞骨格因子の視点から明らかにすることを目的としている。平成28年度で得られた研究実績は以下の通りである。1、ACRBP欠損マウスの表現型を解析した研究成果が国際的に評価されているPNAS誌に掲載され、その内容は国内の複数のメディアによって紹介された。2、精子形成過程でのアクチンの挙動を明らかにするため、アクチン可視化システムLifeactベクターを作製した。このベクターを培養細胞に導入したところ、アクチン動態のイメージングに成功した。3、ACRBP自身のプロセシングもアクロソーム形成を関わることが示唆されたため、新たにACRBPと相互作用する因子を探索した。陰イオン交換カラムや分取電気泳動装置を用いて、精巣抽出液中に含まれるACRBPのプロセシング酵素を精製・同定した。
2: おおむね順調に進展している
本研究計画の当初から進めていたACRBP欠損マウスの解析結果がPNAS誌に掲載され、その内容は朝日新聞や日本経済新聞などで紹介された。この点は大きく評価できる。また、平成28年度は新たにACRBPのプロセシング機構の解析にも取り組んだ。カラムクロマトグラフィーにより精巣抽出液からACRBPの切断酵素が同定されたことで、研究が大きく前進した。その一方で、予定していたアクチンライブイメージング用の遺伝子改変マウスの作製が飼育施設の移設などで大幅に遅れて、一部実験計画に見直しが必要になった点は次年度改善したいと考えている。
延長申請した平成29年度は、前年度作製したアクチン可視化システムLifeactベクターをマウスに導入することを試みる。マウス精巣でのアクチン動態をイメージングしたり、体外での組織培養系を立ち上げることで、精子形態過程でのアクチンの役割を明らかにする。同時に、ACRBPのさらなる機能を調べるため、カラムクロマトグラフィーや質量分析器などを利用してACRBPと相互作用するプロセシング酵素の発現・機能を解析していく。
動物管理施設の移設作業などにより、動物を用いた実験、特に遺伝子改変マウスの作製ができず、実験計画の一部見直しが必要となったため。
当初予定していたアクチン動態を可視化するための遺伝子改変マウスの作製、またACRBPの新規作用因子の精巣での発現や機能解析のために使用予定である。
筑波大学生命環境科学研究科分子発生制御学研究室HP(http://agbi.tsukuba.ac.jp/~acroman/)朝日新聞デジタル版2016年6月28日(http://www.asahi.com/articles/ASJ6S5CTKJ6SUJHB017.html)
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Proc. Natl. Acad. Sci. USA
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