哺乳動物の精子頭部には、アクロソーム(先体)とよばれるゴルジ体由来の特殊な細胞小器官が存在する。先体内にはさまざまな加水分解酵素が含まれており、受精で重要な役割を担っている。我々はこれまでの研究から、先体タンパク質ACRBPが細胞骨格因子アクチンと何らかの相互作用をもつことを明らかにした。本研究ではアクチン細胞骨格をモニターできるシステムを構築し、ACRBPによる精子先体形成のメカニズムを解明することを目的とした。最終年度までに得られた研究成果は、次の通りである。(1)ACRBP遺伝子欠損マウスの表現型を解析した結果、ACRBPは先体形成初期の先体顆粒の集積に必要なことが明らかになった。(2)ACRBP欠損精子は多形化しており、ヒト男性不妊症との関連が示唆された。(3)精子形成過程でのアクチンの挙動を明らかにするため、アクチン可視化システムLifeactベクターを作製し、マウスに導入した。このアクチン可視化マウスを解析したところ、先体形成時期の精細胞ではアクチン構造がファイバー状になることが明らかになった。(4)ACRBPと相互作用する因子の同定を試みた。陰イオン交換カラムや分取電気泳動装置を用いて、精巣抽出液中に含まれるACRBP作用因子を精製・同定した。 これらの成果のなかで、(1)と(2)はPNAS誌に掲載され、国際的に高い評価を受けた。 今後は、(3)で作製したアクチン可視化マウスを用いて、精子形成過程や受精でのアクチン構造の変化を超解像顕微鏡でイメージングしていく予定である。
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