微量栄養素の欠乏は発展途上国を中心として大きな問題となっている。必須栄養であるヨウ素については約20億人が十分量を摂取しておらず、ビタミンA欠乏症、鉄欠乏症、亜鉛欠乏症とならんで、その解決が望まれている。解決のためにヨウ素添加食塩の普及の取り組みが、さまざまな国際機関や非営利組織により行われているが十分とはいえない状況である。本研究では、世界のヨウ素欠乏症の解決に貢献するために、高ヨウ素栄養作物の育種を最終目標としている。これまでに私達は、ヨウ化物イオンのメチル化活性を持つAtHOL1タンパク質をコードする遺伝子を破壊したシロイヌナズナT-DNA挿入株において、ヨウ素含量が上昇することを示している(中村達夫ほか、ヨウ素高含有植物の作製方法、特許第5692695号)。実用化に耐えうるヨウ素含量を示す作物を育種するためには、HOL遺伝子だけではなく、ヨウ素の取込みや蓄積に関わる新たな遺伝子を同定する必要があると考えている。 そこで本研究では、遺伝学的アプローチによりヨウ素蓄積に関わる新規遺伝子の同定を試みた。平成27年度までに、約300系統のシロイヌナズナ生態型について、地上部と根のヨウ素含量をICP-MSを用いて定量した。得られた表現型データにもとづいてゲノムワイド関連解析を行った結果、染色体の8箇所においてヨウ素含量に関連すると予想されるDNA多型が検出された。これらの近傍に位置する遺伝子群について、T-DNAホモ挿入株の作製をすすめた。平成28年度は、T-DNAホモ挿入株の作製を進めると同時に、得られた株からヨウ素含量の表現型解析を順次行い、ヨウ素含量と関連のある遺伝子の同定を試みた。
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