研究課題/領域番号 |
26450503
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
薮田 行哲 鳥取大学, 農学部, 准教授 (00379562)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 12-オキソフィトジエン酸 / オキシリピン / レトログレードシグナル / レドックス / 熱ショック転写因子 |
研究実績の概要 |
葉緑体から核へのシグナル(レトログレードシグナル)伝達は迅速な光酸化的ストレス応答に重要であるが、その詳細は不明な点が多い。本研究ではシロイヌナズナの熱ショック転写因子A1d(HsfA1d)を介した光酸化的ストレス応答に関わるレトログレードシグナルの分子機構を明らかにするため、12-オキソフィトジエン酸(OPDA)に着目し研究を行った。昨年度までに、強光によるApx2やHsfA2の誘導(短くとも1時間以内)にはOPDAを含めたオキシリピン類は関与していない事が示唆される結果を得ている。そこで本年度はHsfA1d以外も視野を入れ、オキシリピンが関与する強光応答シグナルについて調査するため、オキシリピン類の生成量が低下しているfad3-2fad7-1fad8-1三重変異株(fad3/7/8)を用いて解析した。強光条件下で、野生株とfad3/7/8の間で発現レベルに差がある遺伝子をRNA-seqにより網羅的に解析した。その結果、野生株と比較してfad3/7/8で発現レベルが2倍以上高かった遺伝子は153種類、1/2以下に低かった遺伝子は239種類認められた。fad3/7/8で発現が低下していた239遺伝子の発現制御にはオキシリピン類が関与していることが示唆され、実際にオキシピン類であるジャスモン酸により制御を受ける遺伝子がいくつか認められた。そこでこれらの遺伝子の強光下における発現を野生株、fad3/7/8および、ジャスモン酸を合成できないaos変異株を用いて解析した。その結果これらの発現は野生株と比較してfad3/7/8およびaosで低下していた。以上の結果より、強光応答にジャスモン酸が関与している事が示唆された。また、HPLC分析に用いるオキシリピン類の標準化合物の合成と植物体に含まれるこれらの量を分析した。しかしながら、植物に含まれる量は僅かであったため定量には至らなかった。また当初の目的の1つであったOPDAについても定量を試みたが、非常に低濃度の為に定量できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の解明目標であった、HsfA1dを介するApx2やHsfA2の強光応答にはOPDAを含めたオキシリピン類は関与していない事が示唆された。しかし今回RNA-seqにより、強光応答においてオキシリピンシグナルにより制御を受けていると思われる遺伝子を単離することができた。また、オキシリピン類であるアクロレイン、(E)-2-ペンテナール、(E)-2-ヘキセナール、4-ヒドロキシノネナールのジニトロフェニルヒドラゾン誘導体の合成、HPLCによる測定と検量線の作成を行った。また植物内のこれらの測定を試みたが、含有量が少なく定量には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
強光ストレス応答にジャスモン酸が関与している事が示唆されたので、ジャスモン酸応答に異常を持つ変異株を用いて、本年度単離した遺伝子の強光応答を解析する。また、今回調べたPDF1.2、VSP1およびJRG21以外の遺伝子の機能について調べ、重要と思われるタンパク質をコード(転写因子など)する遺伝子についても合わせて解析を行う。また、通常下とストレス下におけるオキシリピン類の定量は使用するサンプル量を増やすなどをして測定を試みる。またオキシリピン類ではないが、葉緑体で光酸化的ストレスに伴い生成するカロテノイド酸化物もレトログレードシグナルとして機能し、様々な遺伝子(Hspなど)の発現を誘導することから、オキシリピンとカロテノイド酸化物によるシグナル伝達の違いについても解析を行う。
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