研究課題/領域番号 |
26450505
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
星田 尚司 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00314823)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 分泌シグナル / Kluyveromyces marxianus / 人工配列 |
研究実績の概要 |
酵母,微生物,ヒト由来の分泌シグナル配列を計15個選び,分泌性ルシフェラーゼ(yGLuc;yは酵母コドンに最適化していることを示す)のシグナル配列をこれらに置換して酵母Kluyveromyces marxianusで発現させ,ルシフェラーゼ活性からこれら分泌シグナル配列の分泌能を評価した。その結果,ルシフェラーゼ活性はシグナル配列により大きく異なり,yGLucの配列を1とした場合,0.2~40倍の様々な活性を示した。一方,全く分泌できない配列も存在した。これらの配列の内,6つの配列を用いてヒト培養細胞でGLucを発現させて活性を調べてみると,酵母の場合と大きく異なり,GLucのシグナル配列による発現量を大きく超える配列は無く,それよりも小さいか,ほとんど分泌できないことが分かった。この結果は,酵母でもヒトでも分泌シグナルにより分泌能が大きく異なることを示している。一方,酵母とヒトで相対的な分泌能が一致しなかったことから,それぞれの細胞で効率的な分泌シグナルが異なることも示唆している。 シグナル配列の厳密な定義を行うためGLucシグナル配列をモデルとして削除解析を行った。続いて,この解析から分泌シグナルとして重要と考えられたアミノ酸残基を網羅的に改変し,特定アミノ酸残基の重要性を調べた。これらの結果をもとに,N末側のリジン残基,シグナル配列C末側のグルタミン酸またはプロリン残基,そしてその間に挟まれた疎水性配列の長さ,が酵母で機能する分泌シグナルとして重要であることが明らかになった。さらに,疎水性残基部分は,特定の単一疎水性残基の繰り返しでも機能し,繰返し数と分泌能は残基により異なることを明らかにした。中でも16個のメチオニン残基からなる配列はK. marxianusで最も効率の良いと考えられるネイティブ配列と同レベルの能力を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度は,酵母及びヒト細胞で分泌シグナル配列の特異性が異なることを示すこと,その結果をもとに,モデル配列を用いて分泌能に重要なアミノ酸配列領域を特定することを目的としていた。この目的に対して,それぞれの細胞でシグナル配列を変えたGLucを発現させた結果,両細胞において,分泌シグナル配列の違いによりGLucの分泌量(活性)が異なること,さらには,酵母で効率的な配列とヒトで効率的な配列が異なることを明らかにすることができた。 さらにGLucの分泌配列をモデルとして酵母でのスキャニング解析および網羅的変異解析を行った結果,N末端側にあるリジン残基,シグナル配列C末端側のグルタミン酸残基,さらにこれに挟まれた領域の長さが重要であること,つまり分泌能に重要なアミノ酸配列領域を決定することができた。さらには仮説に基づく人工的な配列を多数設計し,それぞれの配列の分泌能力から,人工的な全く新しい配列が酵母で効率的な分泌能力を持つことを明らかにした。この配列はMet-Lys-[Met] x 16-Gluという非常に単純な配列であり,シグナル配列をもっとも単純に定義していると考えている。この人工配列を用いた解析により27年度以降の目的としていた疎水性領域に適したアミノ酸残基や最適な疎水性ストレッチの長さを明らかにすることまでできた。
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今後の研究の推進方策 |
酵母及びヒト培養細胞でシグナル配列により分泌量が調節されていることを示す実験のためには,大量に分泌することが可能な,言い換えるとそれ自身が分泌のどの過程においても律速にならないタンパク質とそのための培養条件を決定する必要がある。そこでK. marxianusではイヌリナーゼに着目して,目的のタンパク質となり得るか調べる。ヒト細胞においてはその発現量からアルブミンが理想的であるが,培地に含まれるアルブミンの問題があるので別の候補を検討する。 これまでに決定したMet-Lys-[Met] x 16-Gluは,K. marxianusにおいて,それ自身が持つ分泌シグナルと比較して同等の能力を持っているが,K. marxianusで現在もっとも効率的な糸状菌由来のシグナルの能力を超えるには至っていない。疎水性配列を人工的に改変することでさらに最適化を図る計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文の掲載費をドル建てで立替払いを行ったことにより,日本円での額の確定が遅れたため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
生じた次年度使用額分は平成27年度の物品費として使用する計画である。
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