研究課題/領域番号 |
26460007
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
古田 巧 京都大学, 化学研究所, 准教授 (30336656)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 交差アルドール反応 / 酸塩基触媒 / アニリン |
研究実績の概要 |
脂肪族アルデヒド間の直接的な交差アルドール反応は、ホモアルドール反応や重合が競合し、極めて制御困難な反応である。この反応を達成するには、異なる基質のホルミル基を、エノール成分(求核種)とカルボニル成分(求電子種)に区別し反応させなければならない。本研究では、おだやかな反応性を持つ活性中心と基質認識部を併せ持つ分子認識型触媒を開発し、反応性が類似したホルミル基を触媒的に識別できれば、脂肪族アルデヒドの直接的かつ立体選択的な交差アルドール反応が実現できると考え実施した。 前年度の検討で、低反応性の触媒として、アニリン型アミノ基を持つ軸性不斉アミノ酸の触媒機能を検討したところ、NTs 基を持つ非対称な脂肪族 1,6-ヘキサンジアールの分子内不斉交差アルドール反応が、位置・立体選択的に進行することがわかった。本年度は、この触媒反応を、窒素を持たない非対称 1,6-ヘキサンジアール誘導体や、NBoc 基を持つ 1,7-ジアールの分子内交差アルドール反応に展開した。その結果、これらの反応は、いずれも高位置・高立体選択的に進行し、それぞれ、キラルなシクロペンタン誘導体やピペリジン誘導体を効率的に与えることがわかった。また、これら生成物の立体構造も絶対配置を含め決定した。速度論的同位体効果の観察やDFT 計算から、反応機構の解析も行い、立体選択性の発現機構のみならず、位置選択性の発現機構に関しても考察を加えた。これらの検討は、触媒のアニリン型アミノ基のおだやかな反応性が、区別困難なホルミル基の反応性の差を精密に識別する鍵になっていることを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に目標とした、窒素を持つ 1,7-ヘキサンジアールの分子内交差アルドール反応を位置・立体選択的に進行させることが出来た。また窒素を持たない基質についても検討を行い、キラルなシクロペンタン誘導体を高位置・高立体選択的に合成できることを明らかにした。ホルミル基のアルファ位に重水素を持つ基質を合成し、その速度論的同位体効果を観察することで、本触媒反応の律速段階が、イミニウムイオンからエナミンへの異性化の段階にあることを明らかにし、DFT 計算からもその知見を裏付けた。これらの反応機構に関する知見は、本触媒反応のさらなる展開に向けた重要な基礎となり、特に分子間での交差アルドール反応に向けたさらなる展開への足がかりとなるものである。生成物の絶対構造も決定することができ、立体選択性の発現についても考察した。 以上のように、本年度は分子内交差アルドール反応の反応機構について、基礎的な知見を数多く得る事ができており、研究は順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に十分な検討ができなかった、非対称脂肪族 1,8-オクタンジアールの分子内不斉交差アルドール反応を検討し、7員環が形成可能か検討する。またその際の位置選択性および立体選択性の発現機構についても詳細に検討する。さらに、これまで確立した分子内反応の条件で分子間でのアルドール反応が進行するか検討を加える。分子間反応が進行するようであれば、異種の脂肪族アルデヒドを基質とする分子間不斉交差アルドール反応に展開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では、本年度中に非対称脂肪族 1,8-オクタンジアールの分子内不斉交差アルドール反応、および分子間での交差アルドール反応の検討まで行う予定であった。しかし、反応機構を解明する目的で行った速度論的同位体効果の実験に思いのほか手間取った。そのため、研究はおおむね良好な進展を見せているものの、当初の計画ほどには進展せず、その分研究費を繰り越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
主に、非対称脂肪族 1,8-オクタンジアールの分子内不斉交差アルドール反応、および分子間での交差アルドール反応の検討に用いる試薬類や溶媒類、さらにはガラス器具類の購入に使用する予定である。
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